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増補 チベット密教
本の紹介
  • ツルティム・ケサン (つるてぃむ・けさん)
  • 正木 晃 (まさき あきら)
  • 出版社・取扱者 : 筑摩書房(ちくま学芸文庫)
  • 発行年月 : 2008年5月10日
  • 本体価格 : 本体951円+税

はじめに
第1部 歴史篇
  第1章 チベット密教とはなにか
  第2章 チベット密教の歴史
  第3章 ツォンカパの生涯
第2部 修行篇
  第1章 ゲルク派の密教修行
  第2章 秘密集会聖者流
  第3章 カギュー派・サキャ派・ニンマ派の修行法
補遺 チベット密教のマンダラ世界
より深くチベット密教を知るための読書案内
解説 上田紀行

日本では、チベット仏教に対し、「堕落した仏教」という否定的な見解を抱く人も少なくない(まえがき)。その一因は、チベット密教が、「性的ヨーガ」(性行為を取り入れたヨーガ)を修行体系に含めていることにある。戒律に抵触する、この「性的ヨーガ」の実践は、インドの後期密教(8~13世紀)に由来する。インドの仏教徒たちは、この「性的ヨーガ」と戒律の矛盾を解消しようとしたが、インド仏教が衰退する中、この問題を解決する時間を持たなかった。そのため、この問題は、インドの後期仏教の流れを汲む、チベットの仏教徒たちに引き継がれた。

本書は、この問題の解決に取り組んだチベット密教の全体像を、歴史と修行理論という2つの視点から明らかにしている。また、その言及範囲はチベット仏教全体に及んでおり、チベット仏教に関する優れた入門書ともなっている。

本書はもともと、2000年にちくま新書として刊行されたものである。文庫化にあたり、「チベット密教のマンダラ世界」という項目や上田紀行氏による解説が加えられている。


評者:江田 昭道(教学伝道研究センター研究員)


掲載日:2008年10月10日