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禅のこころ その詩と哲学
本の紹介
  • 竹村 牧男 (たけむら まきお)
  • 出版社・取扱者 : 筑摩書房(ちくま学芸文庫)
  • 発行年月 : 2010年1月10日
  • 本体価格 : 本体1,200円+税

1 真実の自己を尋ねて<実存>
2 「春は花」の風光<言語>
3 永遠の今に生きる<時間>
4 仏に逢うては仏を殺す<身心>
5 平常無事のこころ<行為>
6 自他不二の世界<協働>
7 大悲に遊戯して<大乗>
付編 良寛における詩と哲学-『法華讃』の世界
あとがき

著者は東洋大学学長。唯識思想・華厳思想・浄土思想など、大乗仏教全般を専門とする。本書は、学生時代より故秋月龍珉老師に参禅していた著者が、禅僧による詩を通して、禅の哲学を初心者にも分かりやすく解説したものである。

日常生活において、私たちはまず自己を意識し、そして、その周囲に広がる世界をとらえている。しかし、それはあくまでも実体的にイメージされた自己であり、恒常的・単一的に存在し、自らの意のままになるような自己は存在しない(無我)。禅はこうした「自己」ではない、本来の「自己」の領解、つまり「己事究明」の道である、と著者は言う。「自己は自己を超える主体(不可得の自己)に根ざして、花を見、月を眺める」(130ページ)のであり、即今・此処においては、「いかなる分析もあとからとなる」(140ページ)と言われる。

なお、本書は1988年に講談社現代新書『はじめての禅』として刊行されたものに、付編として「良寛における詩と哲学‐『法華讃』の世界」を新たに加え、題を改め再刊されたものである。


評者:伊東 昌彦(教学伝道研究センター研究助手)


掲載日:2010年4月12日