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電鉄は聖地をめざす 都市と鉄道の日本近代史
書評
  • 鈴木 勇一郎 (すずき ゆういちろう)
  • 出版社・取扱者 : 講談社
  • 発行年月 : 2019年5月10日
  • 本体価格 : 本体1,650円+税

序章  「電鉄」はいかにして生まれたか
第一章 凄腕住職たちの群像 新勝寺と成田の鉄道
第二章 寺門興隆と名所開発 川崎大師平間寺と京浜電鉄
第三章 「桁外れの奇漢」がつくった東京 穴守稲荷神社と京浜電鉄
第四章 金儲けは電車に限る 池上本門寺と池上電気鉄道
第五章 葬式電車出発進行 寺院墓地問題と電鉄
終章  日本近代大都市と電鉄のゆくえ

通勤・通学で鉄道を利用する人は多い。現在、都市部の鉄道利用者は、通勤・通学客がかなりの割合を占める。

また、関西にある阪急電鉄は、沿線に住宅地や行楽地、ターミナルにデパートを建設し、都市開発を進めて利用者を増やすビジネスモデルをつくり上げたと言われることが多い。しかし、初めからそうだったのではない。設立当初は、中山寺や清荒神など沿線の寺社への参詣客の輸送を主体に置いていた。寺社への参詣客は、鉄道輸送の大きな柱の一つだったのである。

これは阪急電鉄に限った話ではない。現在の大都市近郊の路線を運営する鉄道会社の多くは設立にあたって、寺社参詣を目的に掲げていた。後に阪急をモデルとして、沿線に住宅地を開発していったのである。

さらには、寺社の側から鉄道建設をはたらきかけた例もある。日本では江戸時代から、行楽を兼ねて遠隔地の寺社に参詣することが盛んであり、鉄道はそれを容易にするものであった。この他、実現しなかったものの、都市郊外に寺院や墓地を建設し、それを都市と結ぶ「葬式電車」を運行する計画も存在した。

いずれにせよ、寺社参詣を目的として鉄道が建設され、その沿線が住宅地として開発されていった。そう考えるとある意味、大都市郊外の住宅地は、寺社によって造られたようなものと言うことができる。都市開発と寺社の意外な関係を知ることのできる一冊である。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2019年8月13日