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異教の隣人
本の紹介
  • 釈 徹宗 (しゃく てっしゅう)
  • 毎日新聞「異教の隣人」取材班 (まいにちしんぶんいきょうのりんじんしゅざいはん)
  • 細川 貂々 (ほそかわ てんてん) マンガ
  • 出版社・取扱者 : 晶文社
  • 発行年月 : 2018年10月30日
  • 本体価格 : 本体1,650円+税

0  異教の隣人の声を聞く(釈 徹宗)
1  イスラム教 ご近所に溶け込む茨木モスク
2  ジャイナ教 非暴力・不殺生を説く2500年の歴史を持つ宗教
3  ユダヤ教 神戸のシナゴーグ 安息日の祈り
   ユダヤ教の安息日に入る前の礼拝に行きました(細川 貂々)
4  台湾仏教 北京語が飛び交う兵庫・宝塚の寺院
5  神戸の外国人墓地 さまざまな宗教の墓碑が共存する場
6  修道女 生涯を神に捧げる生き方とは
7  シク教 異教徒も排除せず、違いを尊重する宗教
8  「奇跡の主」の祭り ペルー発祥の聖行列を大阪で
9  ベトナム仏教 姫路に根ざした元難民らの寺院
   シク教の日曜礼拝に行きました(細川 貂々)
10 ヒンドゥー教 インドを体現する宗教の教えと暮らし
11 韓国キリスト教 大阪・生野に95年、関西最大級の教会
12 日本人ムスリム イスラム教に改宗した女性たちの暮らし
13 ブラジル教会 ハレルヤ!の声が響く元倉庫の教会
14 華僑 民間信仰と先祖供養の拠点
15 ムスリムと衣服 高まるファッションへの意識
   イスラム教のモスクに行きました(細川 貂々)
16 ラマダン明け 断食終えた一体感が伝わる祝祭
17 正教会 外国人らも集う厳かな祈りの聖堂
18 「みとりの場」 タイの専門家と死生観を学び合う
19 コプト正教会 原始キリスト教の典礼様式いまも受け継ぐ
20 イラン人の名物店主 イスラムの教えとオープンマインド
21 朝鮮半島の巫俗 大阪の住宅地に息づく母国の民間信仰
   日本にコプト正教会ができて1周年記念の礼拝に行きました(細川 貂々)
22 在日クルド人 住民間の交流が進む埼玉の「ワラビスタン」
23 春節祭 華やかで楽しい「ザ・祭礼」
24 宗教への感性を身につける(三木 英×釈 徹宗)

日本では仏教に複数の宗派が存在するが、宗派対立が日本において深刻な社会問題になっているわけではない。さらに、仏教は神道とも共存しており、日常生活で「信仰の違い」を意識する機会は、まずない。ただしこれは、日本に古くから存在する宗教についての話である。それ以外の宗教や、その信者についてはどうであろうか?「話は聞いたことがあるけど、その宗教の施設に行ったことはないし、その信者に会ったこともない」という人が大半であろう。

そこで、著者や取材班が、日本ではあまり身近ではないが、伝統的な宗教の施設を訪問し、信仰や生活の在り方などについて尋ねた。それをまとめたのが、本書である。話を聞いた相手はほとんどが外国人であるが、日本人ムスリム(イスラム教徒)も含まれている。

評者が本書から感じたのは、日本では伝統的ではない宗教やその信者に対して、なじまない感覚を覚えるなら、それは多分に「信仰の違い」よりも「生活習慣の違い」に起因しているということである。日本で「信仰の違い」をとくに意識しないでいられるのは、信仰が異なっていても生活習慣に大きな違いがないからであろう。

昨年(2018年)、出入国管理法が改正された。政府は「移民」という言葉を使っていないものの、この改正により日本で暮らす外国人が増えることになる。これは、生活習慣を異にする人たちと接する機会が増えることを意味する。「郷に入りては郷に従え」を要求するだけでは、トラブルになりやすい。しかし以前と比較して、ムスリム向けの食品が入手しやすくなってきたという(197ページ)。習慣を異にする人たちとどう共存すればよいのか、その手がかりが本書にある。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2019年5月10日