仏教音楽・儀礼研究室では、浄土真宗の儀礼について様々な角度から対談する「本願寺茶房」を開催しています。
2016年3月4日 本願寺聞法会館にて開催
客人
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田口祐子先生國學院大學大学院文学研究科特別研究員 著書 『現代の産育儀礼と厄年観』(岩田書院、2015年) など 論文 |
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亭主
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天岸淨圓先生行信教校講師・相愛大学講師
著書 論文 「親鸞聖人の証果論の特色」(『行信学報』2004年)など |
対談内容
まず田口先生から、「人生儀礼」という言葉の説明がありました。学術用語としてはファン・ヘネップ(1873-1957、フランスの文化人類学者)が用いた「通過儀礼」の語があります。しかし、その定義の範囲は広いため、人生の節目に行う儀礼を「人生儀礼」と呼んでいるそうです。その人生儀礼には、初宮参り、七五三、厄年などがあると紹介され、それらの歴史や展開、行う人々の思いなどが解説されました。また、近年の傾向として、昔の人たちが行ってきたことを自分たちも行う事に重点が置かれ、「伝統への信頼」が大切に思われているのではないか、といわれます。
それを受けて天岸先生から、浄土真宗には祈祷やお守り、縁起物などがないことが紹介されました。その上で、天岸先生自身が自坊で七五三のお参り(七五三の年齢をきっかけとして、ここまで元気に育ったことに対する仏さまへの感謝のお参り)に取り組んでいること、さらに厄年について注目したいと考えていると語られます。
そこで話が厄年へと移ります。田口先生によると、厄年が現在のように盛んになったのはここ2、30年のことだそうです。佐野厄除大師(栃木県佐野市、天台宗寺院)が厄除けのPRを行ったところ「厄年」の認知度が上がり、各地の神社にお祓いの問い合わせが増加し、神社界の神道青年会が厄年の早見表を配付するなどの活動を行ってきました。そのような活動によって、神社へ厄除けに来る人が増加したと説明されました。
それに対し天岸先生は、厄年のように伝統的な習俗、儀礼や儀式といったものの根底にある人々の思いは大切であり、些細なできごとをきっかけとして、親鸞聖人の教えにつなげていくような縁の結び方を考えることが重要ではないかと述べられました。
また田口先生から、儀礼に関する新たな動きとして、儀礼産業が紹介されました。七五三などの記念写真を撮影している一般企業が、自社のサービス内容の紹介と合わせて儀礼の啓蒙活動を行っているような状況にあるそうです。一方、天岸先生は、葬儀業界の方から習俗や儀礼についての情報が発信されている状況に似ているのではないかとされました。
最後に田口先生は、目まぐるしく変化する世の中で、現代人は強い安心感を求めるようになる。その時に、神社や寺院が、伝統にもとづく安心感を提示できればよいのではないか、と述べられます。また、昔の人々が、子どもの成長を願い行ってきた儀礼を自分もすることにより、自分を親として位置付け、その役割をはたす機能があると述べられました。
それを受けて天岸先生は、親として、家族として意識を成熟させていく、充足させていくものとして儀礼は位置づけられるのではないか。また、儀礼を行うことで自分自身を見つめ直していくことができるのではないか、とまとめられました。