HOME > 読む! > 2020年2月

ジャータカ 仏陀の前世の物語
書評
  • 松本 照敬 (まつもと しょうけい)
  • 出版社・取扱者 : KADOKAWA(角川ソフィア文庫)
  • 発行年月 : 2019年3月25日
  • 本体価格 : 本体1,080円+税

はしがき
第一章 ジャータカとはなにか
第二章 動物としての旅路
第三章 人としての旅路
第四章 神としての旅路
出典対照表

釈尊(ブッダ)は29歳で修行に発ち、35歳で悟りを開いた。しかし後の人々は、釈尊が悟りを開いた原因は、6年の修行だけではないと考えた。インドには古くから、命あるものは生まれ変わりを繰り返すという「輪廻」の思想がある。輪廻の中で、さまざまな生き物に姿かたちを変えていく。そこで、仏教を伝えた人々は、釈尊は無限とも言えるような過去から生まれ変わりを繰り返し、その中で善業を積んできたから、最終的に悟りを開くことができたと考えるようになった。そのような、釈尊の過去世での善業を伝える物語を集めたのが、「ジャータカ」である。

ジャータカには膨大な数の話が伝わる。そのうち31話を現代語訳したのが、本書である。

著者は、ジャータカとはインドの民話に仏教的な解釈を施して、釈尊の過去世の物語としたものであると言う(第一章「ジャータカとはなにか」)。著者はそれを説明するにあたって、「桃太郎」を例に説明している。物語の登場人物を、釈尊や周辺の人々の過去世の姿として、登場人物の行いを仏教的に意味づければ、「桃太郎」も仏教の教えを説く物語になる。

ジャータカは、仏教を世に伝えようとした先人の努力の成果である。そう考えると、仏教と無関係と思える話も、仏教を伝える題材になり得る。仏教を学ぶ手かがりは、身近に存在していることになる。

また、ジャータカには魅力的な物語が多い。各々がお気に入りの物語を見つけて頂ければ、喜ばしいことである。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2020年2月10日