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東アジア仏教史
本の紹介
  • 石井 公成 (いしい こうせい)
  • 出版社・取扱者 : 岩波書店(岩波文庫)
  • 発行年月 : 2019年2月20日
  • 本体価格 : 本体880円+税

序章  相互影響の東アジア仏教史
第一章 インド仏教とその伝播
第二章 東アジア仏教の萌芽期
第三章 廃仏と復興
第四章 中国仏教の確立と諸国の受容
第五章 唐代仏教の全盛
第六章 東アジア仏教の定着
第七章 禅宗の主流化と多様化する鎌倉仏教
第八章 近世の東アジア仏教
おわりに-近代仏教への道
あとがき
参考文献-東アジア仏教史を学ぶ人のために
索引(仏名・神名・人名)

仏教はインドで始まり、中国を経由して日本に伝わった――仏教の展開がこのように理解されることが多い。これは間違いではないのだが、十分とは言えない。仏教が日本に伝わるまでに、仏教は各地域で独自の発展を遂げており、日本仏教は中国だけでなくその周辺地域の仏教からも影響も受けている。また、日本などの仏教が、中国仏教に影響をあたえた要素も存在する。本書は東アジア(本書では中国・朝鮮半島・ベトナム・日本を指す)の仏教を見渡す視点で書かれた一冊である。

本書は宗派や思想の展開だけでなく、信仰の在り方や文化への影響にも言及するなど、内容は多岐にわたっている。そのため「東アジア仏教の特徴」を端的に言うことは難しいが、一点挙げるなら、「異文化との交流」である。仏教が伝わると、その地域固有の信仰の影響を受け、また地域の信仰が仏教の要素を取り入れた。これを「純粋さが失われた」と見るか、「他宗教と平和裡に共存した」と捉えるか、見方の分かれるところであろう。

一般向けの仏教書を見てみると、仏教の歴史を語る場合、インド仏教(とくに釈尊の時代)や日本仏教には多くのページが割かれているが、それ以外の地域については解説が簡略になっている例がよく見られる。だが、仏教が日本に伝わるまでにどのようなことが起こっていたかを知ることは、日本仏教について知るためにも有益である。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2019年6月10日