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ビハーラと『歎異抄』による救い
本の紹介
  • ビハーラ医療団 (びはーらいりょうだん)
  • 出版社・取扱者 : 自照社出版
  • 発行年月 : 2017年8月25日
  • 本体価格 : 本体1,800円+税


I 中村久子と『歎異抄』(三島 多聞)
  『歎異抄』で死を超えていった念仏者たち(田代 俊孝)
II 『歎異抄』に学ぶビハーラの道-人は自力から他力へどう転回するするのか?-(志慶眞 文雄)
 老病死の受容と『歎異抄』九章(田畑 正久)
 ビハーラと『歎異抄』と人生の解決(宮崎 幸枝)
 真実の慈悲(藤枝 宏壽)
 病院での死・自宅での死(相河 明規)
 解説『歎異抄』について(田代 俊孝)
ビハーラ医療団について

仏教が医療や介護といった社会福祉の各分野と連携して、老・病・死の苦悩に答えようとするのが「ビハーラ活動」である。本書は、その活動に取り組む「ビハーラ医療団」の研修会の記録をまとめたものである。

報告者の一人、田畑正久氏(ビハーラ医療団世話人、西本願寺医師の会発起人)は、「死というものをどのように受け止めていくか」が一番の課題だと話す。その中で「他力の悲願はかくのごとし、われらがためなりけりとしられて、いよいよたのもしくおぼゆるなり。」と説く『歎異抄』第九章にたびたび触れながら、生死の問題は人間の思考を超えたところにあるのだから「私のすべきことは、今、生かされていることで果たす役割を精いっぱい果たさせていただいて、後はお任せ、〈南無阿弥陀仏〉」と語る。さらに、「老病死」は不都合なものと捉えられやすいが、不都合なだけではないと言う。なぜなら、「老病死」を受け入れることは、それまで気づかなかった世界に気づく縁になるからである。そこで、医療現場において「老病死」を受け入れられやすくするため、この世を超えた領域を語る宗教性が共有されるようにしたいと話す。

この他にも、医療現場におけるさまざまな取り組みや、その経験を『歎異抄』の教えに照らして学んだ内容が報告されている。

評者が思うに、病気に遭うことは、逆境に出くわすことでもある。本書はビハーラについて知るだけでなく、人生の逆境にあったときどう考えればよいかの手がかりともなろう。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2018年1月14日