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アメリカ流マインドを変える仏教入門
本の紹介
  • ケネス・タナカ (けねす たなか)
  • 伊藤 真 (いとう まこと)
  • 出版社・取扱者 : 春秋社
  • 発行年月 : 2016年12月20日
  • 本体価格 : 本体1,800円+税

はじめに
第1章 今日の仏教の概要-アメリカにおける仏教の発展を中心に
第2章 釈尊-その生涯とイメージ
第3章 四つの聖なる真理(四聖諦)
第4章 「存在の第一の印」の教え(一切皆苦)
第5章 「存在の第二の印」の教え(諸法無我)
第6章 「存在の第三の印」の教え(諸行無常)
第7章 「存在の第四の印」の教え(涅槃寂静)
第8章 八項目から成る聖なる道(八正道)
第9章 仏教と今日の社会・文化
おわりに
あとがき
テレビ放映の動画へのアクセス方法

著者のケネス・タナカ氏は、浄土真宗本願寺派の僧侶であり、日米両国で活動している。本書は、ロサンゼルスのケーブルテレビで放送された、仏教に関するテレビ・シリーズを書籍化したものである。なお、同番組は You Tube で公開されている(Buddism Today : Answering to the Call of the World で検索)。

「仏教を初めて学ぶ、またはほとんど学んだことのない人を対象にした、入門的なもの」(4ページ)とある通り、平易というだけでなく、聞き手の興味を引く説き方がなされている。その一例は、悟りを日常生活に応用することを説いていることであり、日本でも以前に話題となった『チーズはどこへ消えた?』を題材に語っている。それまであった巨大なチーズがなくなっていたとき、そこにあったチーズにこだわっていた小人たちは失望したが、ネズミたちは気にせず、すぐに新たなチーズを探し始めた。著者はこれを元に、執着が苦を招くのであって、執着を離れることで道が開けると説く。

悟りを開くとは、すべての執着を離れることである。もちろん、本来の悟りはあまりにも深遠であり、通常では及びもつかない。しかし、部分的ではあっても執着を離れることはできるのであり、そうして自分の内面を変えることで「人生は素晴らしいものにできる」(158ページ)と言う。このような説き方は、成果を重視する人たちにとって魅力的と思われる。「ゴールに素晴らしいものが待っている」と言われても、ゴールがはるか遠くでは、途中で嫌気がさしてしまう。しかし、まずは身近なゴールを設定すれば、成果が見えやすくなり、努力の意義が感じられ、その後の努力が続けやすくなる。

この他にも、日常でも実践できる瞑想を紹介し、仏教が科学とくに心理学となじみやすいものであることを語っている。

本書の内容は先述の通り、アメリカ人を対象としたものが元である。しかし、「あとがき」に「本書は仏教のアジアへの『逆輸入』現象の一つ」(233ページ)とあるように、本書のような説き方は、日本においても仏教への関心を呼ぶものとなろう。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2017年4月15日