- 出版社・取扱者 : NHK出版
- 発行年月 : 2017年4月1日
- 本体価格 : 本体905円+税
目 次 |
はじめに 第1回 唯識の歴史と基本思想 第2回 自分とは何ものか 第3回 唯識を“体得”する 第4回 深層からの健康 第5回 唯識の科学性 第6回 「いのちの時代」の到来 参考文献一覧 |
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唯識思想とは、「すべては心が作り出した」という思想である。常識的には「ものごとは心と無関係に存在する」と考えられる。しかし唯識思想では、「深層にあって通常では認識できない心がものごとをつくりだす」と説明される。
「すべては心が作り出した」と言うと、存在を否定するように捉えられるかもしれないが、そうではない。ここで問題とされるのは「それが存在しているかどうか」ではなく、「それが存在していると認識しているかどうか」である。
本書はその一例として、「嫌いな人」がいるのではない、自分の心がその人を「嫌いな人」にしていると説明する。すなわち、「嫌いな人」という実体はなく、自分の心がその人を「嫌な人」にしているのである。
「自分の心が存在を作り出している」という見方ができるということは、「自分自身の存在もまた、実体はない」と見ることができることでもある。これにより自分への執着を離れ、他者を慈しむ心が生まれると著者は述べる。
こういった考え方は、常識的な発想と大きく異なるだけに、唯識は難しいと思われがちである。それを、なるべく専門用語を避けながら解説したのが、本書である。仏教の哲学知ることは、学問のための学問ではない。私たちの生き方を見直させるものである。そう感じさせる一冊である。
評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)
掲載日:2017年8月10日