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親鸞なう 750年の時を超えて
書評
  • 福井新聞社編集局特別取材班 (ふくいしんぶんしゃへんしゅうきょくとくべつしゅざいはん) 編著
  • 出版社・取扱者 : 福井新聞社
  • 発行年月 : 2011年9月9日
  • 本体価格 : 本体1,429円+税

プロローグ
第1章 親鸞 どんな人<インタビュー>
第2章 現代に生きる教え
第3章 大震災 宗教の使命
第4章 葬儀って何?
第5章 寺の未来 住職の仕事
第6章 真宗王国・福井
第7章 越前四カ本山宗主に聞く
第8章 福井県民意識調査から
親鸞の生涯
用語集
宗教に関する福井県民意識調査データ
福井県内に残る親鸞伝説
参考文献
あとがき

一昨年の暮れのこと。福井の実家へ帰り福井新聞を開くと、大きな文字で書かれた「親鸞なう」の題字が目に飛び込んできた。間違えて本願寺新報を手に取ったかなと瞬間的に確かめたが、やはり福井新聞だ。思わず「へー」と驚きの声を漏らした。

この「親鸞なう」の連載は、親鸞聖人750回大遠忌にあわせ、福井新聞で2010年10月15日から始められた。初回は1面トップ記事で掲載され、以降の9ヶ月間も、特集以外は1面左上の位置で連載が続けられた。それが再編集され1冊にまとめられたのが本書である。

2010年秋の福井新聞社の調べでは、福井県の全世帯の63.8%が浄土真宗であるそうだ。また県内には真宗十派のうち4つの本山がある。だからこその面は勿論あろうが、それにしても公の媒体で思い切った企画を立ち上げられた新聞社の決断を嬉しく思う。

内容は、親鸞聖人の実像とその教え、そして福井県内を中心に今日の浄土真宗についていろいろな角度からアプローチされている。東日本大震災と真宗教団、真宗の葬儀について、寺院の現状と僧侶の取り組みなど。本書「はじめに」には、生きる希望を見いだせなくなっている現代に「信仰とは何か」「宗教の役割とは」を問い直したいと謳われている。

さて、他の関連書籍と比べたとき、本書の最大の特長は、その登場人物の多さにあるように思う。なんだ、そんな単純なことかと言われるかもしれないが、その点が本書をまさに「親鸞なう」と呼ぶにふさわしいものにしている。

例えば第4章「葬儀って何?」では、宗教学者の島田裕巳氏や本願寺派(西本願寺)や大谷派(東本願寺)の研究機関の所長に、それぞれの専門的立場からの意見を聞いている。しかもそうした著名人や専門家だけではない。県内の葬祭業者の社長、福井別院や地元の真宗僧侶、他宗派の僧侶、地域の自治会長、都会で生活する県内出身者。次々といろんな立場の人が登場しては、その声を通して浄土真宗の今が語られている。

そうしたさまざまな人たちの声の中には、「葬式や法事の執行会社に成り下がっている寺が多い」(福井市男性)といった僧侶や寺院のあり方に対する厳しい批判も含まれている。また、若い世代の宗教離れが進行する危機的状況も報告されている。本書の根底には、現代社会と宗教をめぐる危機感があることは間違いない。それは、宗教者に対する厳しい問いかけでもある。

ただその一方で、私個人は本書から、どこか元気をもらったことも、最後に付け加えておきたい。というのも、本書からは、浄土真宗の明日を考え、思いをもって行動している人たちが、決して少なくないことも知られるからだ。悩みながらも地道に努力を重ねている人たちがいる。その思いに共鳴する輪が広がっていくならば、きっと現代に浄土真宗の教えを生かしていく大きな力となるに違いない。


評者:高田 文英(龍谷大学講師)


掲載日:2012年06月11日