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無量の光 親鸞聖人の生涯(上・下)
書評
  • 津本 陽 (つもと よう)
  • 出版社・取扱者 : 文藝春秋(文春文庫)
  • 発行年月 : 2011年4月10日
  • 本体価格 : 本体1,362円+税

[上巻]
序(薗田 香融)
面授の弟子
洛中隠棲
緋色の記憶
吉水
本願の道
非僧非俗
転機

[下巻]
関東へ
解脱の光輪
教人信
正信
洛中閑居
老境
善鸞義絶
弥陀の光明
魚に与うべし
文庫版あとがきにかえて

以前大学の講義で「親鸞の思想と生涯」というテーマで1年間講義をした。そのテーマ設定の意図は、親鸞聖人の生涯の事績に即することで、その思想をよりリアルに学んでいこうというものであった。しかしいざ講義が始まると、どうしても歴史的な話が中心となり、どこに思想を挟み込んでいくか、「生涯」と「思想」を有機的に絡ませつつ講義することに、苦慮したことを憶えている。

その後私は、著者の最初の親鸞聖人伝である『弥陀の橋は』(文藝春秋、2004年)を読み、この書を講義の参考図書としなかったことを密かに後悔したのである。『弥陀の橋は』は、まさに私のやりたかったことが小説として体現されており、通読すれば、浄土真宗の教えについて親鸞聖人の生涯に即しつつ深く学ぶことのできる希な書籍であった。

しかし『弥陀の橋は』は「むつかしい専門用語がひんぱんに用いられ、一般読者の理解をさまたげるという憾みを残した」(『無量の光』上巻8ページ、薗田香融氏「序」)ため、関係者の間からその再治を望む声があがり、改めて本書『無量の光』の執筆となったという。

前作『弥陀の橋は』はたくさんの聖教の言葉が原文で引かれており、確かに小説としては相当難解なものであった。それに比べると2作目の『無量の光』は、原文は現代語に訳する形がとられ、また構成・内容とも全面的に書き改められ、かなり通読しやすくなっている。

とはいえ、『歎異抄』や『興福寺奏状』の詳細な内容、『選択集』の勝易の二徳、一念多念の問題、『教行信証』に引かれる伊蘭林(いらんりん)の喩えや二河白道(にがびゃくどう)の喩えなど、思想に関する内容がそこかしこに登場することは、前作と変わりがない。

著者の生家は代々の真宗門徒で、篤信の祖母に育てられ、小さい頃すでに「正信偈」を諳んじていたという。本書からは、そんな著者の「親鸞聖人が何を求められ、いかなる教えに出あい、何を喜ばれたのか。それを書かなければ、聖人の生涯を書いたことにはならない」と言うかのような、真摯な思いが伝わってくるように思う。

なお、著者は本年4月に、『親鸞』(角川書店、2011年)と題した本も出版されている。その「あとがき」に「私は親鸞聖人の仰せに従い、「なんまんだぶ」と称えつつ世を去るつもりである」と書かれた一文が重く心に残った。本書『無量の光』に関する著者自身のコメントもいろいろ記されているので、併せて読まれることをお勧めしたい。


評者:高田 文英(龍谷大学講師)


掲載日:2011年6月10日