- 出版社・取扱者 : 日本放送出版協会(NHKブックス)
- 発行年月 : 2007年6月30日
- 本体価格 : 本体1,070円+税
目 次 |
序 章 ダラムサラへの道 第1章 仏教は役にたつのか 第2章 慈悲をもって怒れ 第3章 愛と執着 第4章 目覚めよ日本仏教! 対談を終えて 日本の読者に向けて 謝辞 |
---|
著者の上田紀行氏は、大学で文化人類学や社会改革論を講じる学者である。僧侶ではない。しかし、混迷の日本の未来を切り開くには、仏教がその使命に貢献するという信念のもとに、「利他的社会の建設」をめざして自ら行動を起こしている実践家でもある。
かねて氏が、日本の仏教界の現状について「なぜ既成教団の教えは若者たちに届かないのだろうか。歯がゆい。悔しい。そのことを何とも思っていない教団の姿もまた情けない」と慨嘆しながら著した『がんばれ仏教』(2004)は、仏教者の多くに衝撃を与えた。とくに、仏教が説くところが「正しいことを言っていそうだが、私にとって無意味である……」とまで言い切った批判は痛烈であった。
本書は、その著者が機会を得て、かねてからの疑問や自分の考えをダライ・ラマ法王にぶつけ、本来の仏教のあり方はどのようなものかを確かめた迫真の対話集である。
本書のなかで評者がとくに関心をもったのは、ダライ・ラマ法王の慈悲や思いやりについての考え方であった。法王は言う。「一番基本的な問題は、私たち人間は社会的動物だということであり、……私たち自身から自然に発せられる思いやりによって一緒に生活を営んでいるのです。……愛と思いやりはいかにして育まれるのでしょうか。それは宗教によってでもなく、教育によってでもなく、法律によってでもなく、まさにこの生物学的要因によっているのです」(44~45ページ)。このダライ・ラマ法王の言葉を、上田氏は「法王は、慈悲-愛と思いやりを仏教の教えだから大切なのだとは決しておっしゃらない。むしろそれは宗教先立つものであり、『宗教的に正しいから正しい』のではなく、それ以前に人間性の生物的レベルからの事実なのだとおっしゃるわけです」(47ページ)と解説する。とかく私たちは、仏さまの言われたことだから正しい、祖師が言われたことだから守らなければいけないというふうに言う。それが仏教を信じるということであり、仏教徒の基本的姿勢であるとしてきた。ダライ・ラマ法王の視線は違う。それを超えて人間の生きる原点にまで遡って理解されているのである。このことをはじめ、核心をついた質疑・応答が息をつく間もなく続く。仏教の今に満足しえない僧侶たちに、ぜひ一読をすすめたい。