- 出版社・取扱者 : 湘南社
- 発行年月 : 2015年3月25日
- 本体価格 : 本体3,000円+税
目 次 |
まえがき 序章 「伝絵」と「絵伝」 第一章 上巻第一段「出家学道」 第二章 上巻第二段「吉水入室」 第三章 上巻第三段「六角夢想」 第四章 上巻第四段「蓮位夢想」 第五章 上巻第五段「選択付属」 第六章 上巻第六段「信行両座」 第七章 上巻第七段「信心諍論」 第八章 上巻第八段「入西鑑察」 第九章 下巻第一段「師資遷謫」 第十章 下巻第二段「稲田興法」 第十一章 下巻第三段「弁円済度」 第十二章 下巻第四段「箱根霊告」(附「一切経校合」) 第十三章 下巻第五段「熊野霊告」 第十四章 下巻第六段「洛陽遷化」 第十五章 下巻第七段「廟堂創立」 あとがき 親鸞関係略図 参考文献 |
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親鸞聖人は、自身の著作のなかでも自己の素性について、ほとんど語らない人であった。また、親鸞聖人在世当時の歴史資料の記録にその名が確認できないことも手伝って、明治期には存在を疑問視する声さえあった。いわゆる真宗教団がこしらえあげた架空の宗祖ではないかと考えられたのである。
しかし、大正期に親鸞聖人の妻・恵信尼公の消息(『恵信尼消息』)が見つかり、その実在が証明され今日に至っている。現在は親鸞聖人の生涯について研究がすすめられている状況にある。ただし前述の理由により、親鸞聖人の生涯全体について明確に確認できる歴史資料は乏しい。その為不明確な部分は、親鸞聖人の曾孫(覚如上人)が制作した『親鸞伝絵』を主な資料として伝記的事実を引き出す作業が試みられてきた。因みに『親鸞伝絵』とは、親鸞聖人の生涯における主要な場面が十数カ所ピックアップされている絵巻物のことであり、『親鸞伝絵』から図絵のみを抜き出して掛け軸としたものが『絵伝』である。特に『絵伝』は、掛け軸という特徴(複数の人が同時に鑑賞できる利点があり、布教に有効な道具として需要が多かった)を有し、長い歴史の中で地域を変えながら異本が多数作成されてきた。その為、親鸞聖人の生涯を探る上で、複数の見解をみる原因ともなっている。
本書は、『親鸞伝絵』と『絵伝』をひろく視野に入れながら、未解明の問題について想像を巡らせる。もちろん、親鸞聖人の伝記を紐解くため、他の伝記的文献や学説なども考慮しながら、問題に迫っている。
また、本書の章立ては目次の通りであり、『親鸞伝絵』の決定版とされる康永本(覚如上人晩年の版)に見られる構成(絵の場面)を軸としながら、目次にあてている。各章の中では、これまでの通俗的な見方を示す一方、それに代わる著者の解釈も提示している。例えば、親鸞聖人は青蓮院にて出家し、慈円和尚の弟子になったと言われることが多い。しかし著者は、この伝承には疑問が少なくないと指摘する。
全体的に『親鸞伝絵』や『絵伝』の予備知識があったほうが読みやすい。寺院に属する者や、親鸞聖人の生涯について研究している方が読むと新しい発見に繋がるのではないだろうか。