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寺院消滅 失われる「地方」と「宗教」
本の紹介
  • 鵜飼 秀徳 (うかい ひでのり)
  • 出版社・取扱者 : 日経BP社
  • 発行年月 : 2015年5月25日
  • 本体価格 : 本体1,600円+税

はじめに
一章 地方から寺と墓が消える
   【賢人に聞く1】宗教は「時代遅れ」でもいい(作家 玄侑宗久氏)
二章 住職たちの挑戦
   【賢人に聞く2】二五年後に三五%の宗教法人が消える(國學院大學 石井研士氏)
三章 宗教崩壊の歴史を振り返る
   【賢人に聞く3】僧侶に「清貧さ」は必要か(全日本仏教会 戸松義晴氏)
四章 仏教教団の調査報告
    序論
    浄土宗 過疎地にある正住職寺院へのアンケート
    曹洞宗 宗勢調査・檀信徒意識調査
    浄土真宗本願寺派 宗勢調査
    日蓮宗 宗勢調査
    臨済宗妙心寺派 被兼務寺院調査
日本仏教史
おわりに
解説(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)
参考文献
取材協力者

著者は現職の雑誌記者であり、浄土宗寺院の副住職でもある。その経験を生かして、各地の寺院の実態を探った。その成果をまとめたのが、本書である。その調査から明らかとなったのは、存続の危ぶまれる寺院が少なくないということである(この調査には、浄土真宗本願寺派を含む仏教教団による調査も活用されている)。

なぜ、存続が危機にある寺院が目に付くようになってきたのか。その理由は一様ではないが、本書で指摘される主な点を評者なりにまとめれば、以下のようになろう。

・第二次大戦後の農地改革により寺院所有の農地が放棄させられ、さらに都市化や産業構造の変化による過疎化が各地で進み、寺院の経済基盤が衰えた。

・死生観が変化し、葬儀における僧侶の重要性が低下した。先祖への墓参りを大事にするにしても、それが仏教信仰に結びつくと限らない(鹿児島では「仏教は崇拝しないが、祖先は大切にする」という傾向が強く、これが日本全般に広まるだろうと著者は予測する)。

・これらの傾向を受け、後継者の確保が難しくなっていた。

日本の宗教の未来を予測する手がかりとして、戸松義晴・全日本仏教会元事務総長は、ハワイの日本仏教寺院に言及する。日本人の移民に伴い、日本の仏教教団はハワイに寺院を建立した。しかし、日系三世以降になると、「私たちはもうアメリカ人」との意識が強く、「家の宗教」ではなく「個の宗教」となった。個人の生きる指針となる宗教は求められても、それは寺院を求めることではない。そのため、「住職が信者と信頼関係が築けなかったら、すぐに他の寺院の信者として移ってしまう」と戸松氏は語る。

これらは社会の変化に伴うものであり、必ずしも仏教界に責めに帰するものではない。

これからの仏教界の在り方に対して、佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)は「消滅しそうで、消滅しない」と題する巻末の解説で、「葬式で人びとを惹きつける宗教が、もっとも強い宗教なのである。(中略)寺院消滅を防ぐためには、小手先の作業ではなく、都会で、人びとに死を意識させる活動をすることだ。そこで重要になってくるのが、教学だと思う。(中略)死の現実を社会に広く社会に認識させれば、宗教は復興する」と言う。

歴史を見れば、かつての大寺院が衰退したり廃寺となった例がある。しかし、仏教全体の存続が危機に瀕した事態は、現在までない。安易に変えてはならないものはあるが、変化が必要なものもある。変化のためには、批判に耐えることも必要となる。本書は、将来の寺院の在り方を考えるにあたり、資するところが大きい。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2015年7月10日