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さとりへの道 華厳経に学ぶ
本の紹介
  • 木村 清孝 (きむら きよたか)
  • 出版社・取扱者 : NHK出版
  • 発行年月 : 2014年4月1日
  • 本体価格 : 本体905円+税

はじめに
第一回 教えとともに
第二回 『華厳経』が語るもの
第三回 輝く叡智
第四回 真実を求めて
第五回 教えを慕う人々
第六回 今、ここに出会う

経典は仏教の教えをまとめたものであり、日本でポピュラーなものとして『般若心経』などがある。しかし、経典はキリスト教の聖書とは異なり、本棚には入りきらないほど膨大な巻数がある。本書で扱う『華厳経』も、もちろん、そのなかの一部である。ただ、それほどポピュラーであるとは言い難い。栃木県日光市にある「華厳の滝」は聞いたことがあっても、それが『華厳経』という経典に基づいて命名されたことは、あまり知られていないだろう。

本書の著者は中国仏教研究の大家であり、『華厳経』や華厳教学を研究の中軸に据えている。『華厳経』は西暦400年前後に、西域の天山南路に位置するオアシス都市コータン(現在の中華人民共和新疆ウイグル自治区)周辺で成立したと推測されている。インド文化圏も中国文化圏もともに視野に入る地域である。『華厳経』の原典はサンスクリット語で著されていたと思われるが、完全なものは残されていない。今は漢訳のものが3部、チベット訳のものが1部残されるのみである。漢訳には六十巻、八十巻、四十巻のものがあるが、六十巻本のものが、最もよく当初の形を反映していると考えられている。本書においても、この六十巻本を中心にしている。

『華厳経』では盧舎那仏が教主となるが、この盧舎那仏は「さとられた釈尊」(98ページ)を意味している。盧舎那仏は東大寺の大仏としても有名である。仏教ではさとりの世界を目指して修行をするのであり、『華厳経』は人々をさとりへ誘うと同時に、そこへ至る道のりをていねいに説き明かしていく。さとりの世界のイメージは蓮華蔵世界として語られ、それは無数の因縁によって形づくられている。蓮華蔵世界は空間的にも時間的にも、すべての存在が互いにかかわり合っているのである。

著者は最後に「共成」(194ページ)という言葉をもって本書を締め括る。「共成」とは「共に真実の人間と成る」(同前)というありようであり、互いに手を取り合い、平安な世界の実現に向けて「共に成す」(同前)ことに努める道である。


評者:伊東 昌彦(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2014年10月10日