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この世を仏教で生きる 今から始める他力の暮らし
本の紹介
  • 釈 徹宗 (しゃく てっしゅう)
  • 大平 光代 (おおひら みつよ)
  • 出版社・取扱者 : 本願寺出版社
  • 発行年月 : 2013年12月17日
  • 本体価格 : 本体1,200円+税

はじめに(釈 徹宗)
第1章 私の根っこ、日本人の根っこ
第2章 まずは専門分野からお話ししましょう-「司法」「教育」
第3章 身近な人の姿を通して考えました-「医療」「介護」
第4章 浄土真宗の裾野は文化の宝庫-「文化」
第5章 僧侶(釈)と門徒(大平)の仏教生活-「浄土真宗」
第6章 成熟社会をしなやかに生きる
おわりに(大平 光代)

本書は、相愛大学教授の釈徹宗氏と、弁護士の大平光代氏との対談本である。大平氏はベストセラーとなった『だから、あなたも生きぬいて』(講談社、2002年)の著者でもある。ふり幅の大きな人生遍歴の中で、僧侶になることを決意し、中央仏教学院(浄土真宗本願寺派の僧侶養成学校)で仏教を学んだ。両者の経験談を仏教生活と照らし合わせる形の対談であり、関西弁も混じって非常に読みやすい体裁である。

本書の特徴は、宗教についてロゴス(教義)・パトス(感情・情念)・エトス(行為様式)(26ページ)という三つの側面、とりわけ「エスト」に比重を置いていることにある。釈氏は「エトス」を宗教の裾野と捉え、ここを背景に音楽やアートなど文化が形成されると述べる。宗教の裾野に展開される文化は、それぞれの信仰の垣根を開いていく役割があり、今後の社会ではより視点があてられるべき分野であると釈氏は主張している。

本書で釈・大平両氏は、それぞれの専門分野である「司法」「教育」「宗教」に加え、互いの関心事である「医療」を主要テーマとしながら、対談を重ねる。これらの分野は現在のように、政治が極度に介入したり、経済効率に偏重したりすると具合が悪い領域であると両氏は考え、各分野の問題点や今後のあり方などについて指摘がなされている。釈氏は、これらの問題が起こり得た背景に、現代社会で求められる短時間化、効率化があると捉え、一方で時間を延ばすような方向に目を向けるべき必要性を主張する。時間を延ばす一つの役割を担うものとして「宗教儀礼」に釈氏は着目する。そこで後半は各地に伝わる習慣・文化へと話題が展開する。特に浄土真宗の信仰が強かった地域で人々が大切にしてきた習慣・文化などを通じ、「宗教儀礼」が果たしている役割や仏教生活について話題が進展する。『この世を仏教で生きる』との題名が含意される部分であろう。


評者:網代 豊和(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2014年10月10日