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自力と他力
本の紹介
  • 五木 寛之 (いつき ひろゆき)
  • 出版社・取扱者 : 筑摩書房(ちくま文庫)
  • 発行年月 : 2014年2月10日
  • 本体価格 : 本体680円+税

其の1  他力は「甘えの構造」ではない
(中略)
其の40 人事を尽くさんと思うは、これ天命なり
文庫版あとがき 他力の周辺

浄土真宗の最も重要な用語であり、しかも誤用されやすい「自力と他力」をさまざまな表現を駆使しながら、わかりやすく親しみやすく語った一冊である。

本書のねらいは宗派の解釈にとらわれず、一般人のなかに潜在する他力についての生活感覚を、意識化することにあるという。一例として、著者は他力を風にたとえる。エンジンのついていないヨットは、風がふかなければ動かないが、風を当てにして漫然と待っているだけでは意味がない。吹いてくる風を逃がさないと、最大限の努力をしてこそ、風を利用することができる。

つまり、著者が考える他力とは、「阿弥陀仏の本願の力により往生すること」という本来の意味ばかりではない。もちろん世間で浸透している「あなたまかせ」という誤った理解を示すことでもなければ、自力と対抗する思想でもない。「おのれのはからいを超えた大きな流れをいう」(33ページ)と述べている。

これについて、人間の思考や能力を超えた結びつきである「ご縁」に触れている点は、特筆すべきである。著者は、執筆活動を一時休止し、京都の龍谷大学で学んだ経験をもつ。その動機や理由をよくたずねられるというが、それは「縁あって」の一言につきると語っている。生まれ育った環境やこれまでのさまざまな出会いを考えたとき、「宇宙の時空をつらぬくエネルギー」である他力の世界に生きていると感じずにはいられないという。このような仏教の核心を綴りながら、現代を生き抜く指針を示している。


評者:前田 壽雄(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2014年10月10日