【座学の内容】
前回は『阿弥陀経』の中、「序分」と呼ばれる箇所について学びました。今回から「正宗分」と呼ばれる箇所について学んでいきます。「正宗分」というのは、論文でいえば「本論」に相当します。「正宗分」はさらに、「依正段」「因果段」「証誠段」の三つに分けられます。つまり『阿弥陀経』の「本論」は、全三章から成り立っているということになります。
今回は「依正段」の前半部分である、阿弥陀仏の浄土の情景が説かれた「依報段」までを学びました。お経のご文で言うと、「爾時仏号・長老舎利弗」から「成就如是・功徳荘厳」(『日常勤行聖典』107頁5行目~111頁4行目)までとなります。
①「依正段」の構成について
「依正段」の「依正」とはどういう意味かというと、阿弥陀仏や聖衆のことを示して「正報」と表現します。また、そのような方々がお住まいになられている国土、すなわち浄土のことを示して「依報」と表現します。その「依報」と「正報」をまとめて「依正二報」もしくは「依正」といいます。つまり「依正段」とは、浄土のうつくしいすがたと、阿弥陀仏や聖衆の徳について説かれた一段ということができます。
「依正段」は、さらに阿弥陀仏と浄土についての肝要を短く述べた「略讃」(「爾時仏告」~「今現在説法」〈『日常勤行聖典』107頁5行目~7行目〉)と、広く阿弥陀仏と浄土について讃じた「広讃」に分けることができます。さらに「広讃」は、阿弥陀仏の浄土のすがたについて説く「依報段」(「舎利弗・彼土何故」~「功徳荘厳」〈『日常勤行聖典』107頁7行目~111頁4行目〉)と、阿弥陀仏のすぐれた徳について説かれた「正報段」(「舎利弗・於汝意云何」~「功徳荘厳」〈『日常勤行聖典』111頁5行目~112頁〉)に細分できます。
今回は、この「依正段」の中、「略讃」と「広讃」のうち「依報段」までを学びました。この「依正段」などの名称は、初めて聞くと難しく思えるかも知れませんが、『阿弥陀経』の内容を整理して理解するのに便利ですので、詳しく話しをしました。
②「西方浄土」について
「略讃」の「略」には、要点・肝要を簡略に示すという意味があります。ここには、「阿弥陀如来の浄土が西方にあり、今現在も阿弥陀仏が説法されている」という要点が説かれています。講座では、どうして「阿弥陀仏の浄土は西方にある」と説かれているのか、という点に注目をしました。
「浄土が西方にある」というお言葉は、現代のわれわれの視点からすれば科学的根拠の無い教えのようにも見えてしまいます。しかし、内藤知康和上が、
お浄土が西にあると説くことによって、お釈迦さまは私たちに何を明らかにされようとしたのかを考えることが重要です。
(『どうなんだろう?親鸞聖人の教えQ&A』本願寺出版社、96頁)
と、仰っているように、現代的常識を基に経典を読んでしまえば、お釈迦さまの教えを疑うことになりかねません。浄土が実際に西にあるのかないのかを議論するのではなく、太陽の沈む方角である西に浄土があると説くことで釈尊は私たちに何を伝えようとされたのかを考えることが大切であることを学びました。
③ 阿弥陀仏の浄土のすがたについて
次に「依報段」について話しました。読経でいうと、一度止まって、鏧を三声打つところまでとなります。ここはやや長文ですので、経文を大きく五つに分けて学んでいきました。
(1)「舎利弗彼土何故」~「故名極楽」
最初の段落では、お釈迦さまが、阿弥陀仏の浄土はどうして「極楽」と呼ばれるのかと舎利弗に問いかけられます。しかし舎利弗は答えることができず、お釈迦さまは「阿弥陀仏の浄土には苦しみがなく、ただ楽しみだけを受けるから極楽というのだ」とお答えになります。お釈迦さまの弟子の中でも「智慧第一」と呼ばれる舎利弗でさえも、阿弥陀仏の浄土について答えることはできません。それほどに阿弥陀仏の教えが不可思議であり、難信の法であったことが知られます。
(2)「又舎利弗極楽国土」~「名曰極楽」
次に、阿弥陀仏の浄土の地上のすがたについて説かれます。そこには見える範囲すべてが金や銀などのうつくしい宝物で成り立っている様子を読みとることができます。
(3)「又舎利弗極楽国土有七宝池」~「成就如是功徳荘厳」
次は、主に浄土の池について説かれています。極楽浄土の池の水は八功徳水と呼ばれ、①澄んできよらか(澄浄)、②きよらかでつめたい(清涼)、③あまく、おいしい(甘美)、④かろやかで、やわらか(軽輭)、⑤ゆたかにうるおい、渇かない(潤沢)、⑥おだやかで怒濤・洪水とならない(安和)、⑦飲めば飢えと病いを癒やす(除飢渇)、⑧身心をすこやかに育てる(長養諸根)という八種の功徳のある水であることが示されています。
(4)「又舎利弗彼仏国土」~「成就如是功徳荘厳」
次に、阿弥陀仏の浄土に生まれた者の生活について説かれています。極楽にはうつくしい音楽が流れ、花が降りそそぎ、その花を器に容れて無数の仏がたを供養し、朝食前には元の場所に戻る、といった様相があらわされています。
(5)「復次舎利弗」~「成就如是功徳荘厳」
最後は、浄土の鳥や風のはたらきについて説かれています。浄土の鳥の鳴き声や、風が吹き木々がなびく音などの、阿弥陀仏の浄土に自然に流れる音声すべてが仏の説法を聴いているように尊く、仏・法・僧の三宝への帰依の心が自然に起きる国土であることが示されています。
「依報段」には、このような阿弥陀仏の浄土の美しい情景が説かれていることを学びました。以上が今回の座学の内容となります。
【実践の内容】
実践では「舎利弗 於汝意云何」から、証誠段のうち「北方世界」の段(『日常勤行聖典』111頁5行目~116頁6行目)までを中心に学びました。
始めに、声の高さの違う人が一緒におつとめをするときの調和についての話しがありました。いろいろな人と一緒におつとめをすると、皆それぞれに声の高さが違うので、調和させるのが難しいと感じる方も多いと思います。しかし、それぞれに同じ気持ちでしっかりと声を出していくと、自然に波長が合うようになっておつとめが一つに纏まります。まずはしっかりと声を出すこと、そして気持ちを込めておつとめをすることを心掛けるとよいということです。
そして、経本のいただき方や声の高さを確認したあと、前回学んだ、『阿弥陀経』の冒頭から中切(鏧三声)の箇所(『日常勤行聖典』106頁1行目~111頁4行目)までを実唱しました。実唱後、講師から、「音が一音ほど低くなっていました」との指摘と、おつとめの声の高さが下がるのを防ぐ方法として、まわりの人(特におつとめをリードする人)の声と、自分の声をよく聞いて意識するとよいというアドバイスをいただきました。
続いて、中切(鏧三声)の箇所から証誠段の直前(『日常勤行聖典』111頁5行目~114頁1行目)までを、ゆっくりと朗読しながらお経の言葉を確認した後、同箇所を実唱しました。ここは一度おつとめが止まる箇所ですが、急にもとのスピードに戻すのではなく、少しずつテンポを上げ、経文を4行から5行読む間にもとの速さに戻し、その後は、おつとめのペースを一定に保つようにすることや、ペースが速くなると、行の読み間違いや、拗音の言い間違いなどが起きやすくなるので注意すべきことなどのアドバイスをいただきました。
次いで、証誠段の「東方世界」の段から「北方世界」の段(『日常勤行聖典』114頁2行目~116頁6行目)までを、朗読して経文の言葉を確認した後、実唱しました。証誠段をおつとめする際の注意点としては、同じ言葉が何度も繰り返し出てくるので、おつとめのペースが速くなりすぎないように気をつけること、「恒河沙数諸仏」という言葉は「しゃしゅしょ」と拗音が重なるので、発音に注意することなどを教えて頂きました。
実唱の最後は、本願寺のお御堂でおつとめをする速さにチャレンジするということで、「北方世界」の段を、さらにペースを速くしておつとめをしました。