布教使インタビュー①
西原祐治(にしはら・ゆうじ)
1954(昭和29)年生まれ。島根県出身。1993年に宗教法人「西方寺」を設立。龍谷大学大学院非常勤講師、本願寺派東京教区勤式指導員などを歴任し、現在、東京仏教学院講師、本願寺派布教使、千葉県柏市西方寺住職。
※西原先生へのインタビューは、2023年10月に行いました。その内容は、『季刊せいてん』145号・146号に掲載されています。本記事は、『季刊せいてん』未掲載の内容を中心に構成しています。
■定例法座や法話会をするときに気をつけることとは?
(ポイント:講師選定にこだわる、法話会と年回法要を合わせた「法話会読経」)
――お寺の活動についてお聞きしたいと思います。法話会を開催されているとのことですが、毎回何名くらい参加されていますか?
西原 コロナで少し減りましたが、コロナの前は毎月5、60人くらい来られてましたよ。
――非常に多いですね。何か工夫されていることはありますか?
西原 私のところの法話会は毎月3日なんですけれども、2日が隣の流山市のお寺の常例法座、1日は埼玉の友人のお寺が常例法座なんです。だから講師を1日から3日まで招聘するわけですよ。この三つの寺の住職が集まって講師選定会議をして、来年はどなたをお招きしようかという話をします。そのほかにも、いろんな人に尋ねます。この前も知り合いの布教使の先生に「どなたか若手でいい人いませんか?」って聞きました。「それならこういう人がいるよ」って言われて2名の紹介を受けたので、来年はそのうちの1人に来ていただきます。そういう具合に、今まで来てもらっているベテランの人にも「どなたか推薦できる人いますか?」と聞いて、若手の人にも来てもらう。比較的、九州の人が多いですね。
――やっぱり九州はご法義が篤いところですもんね。ご門徒様が喜ばれるようなお話される方というのはどういう点に特徴があるんでしょうか?
西原 やっぱりご法義ベタベタの話は喜ばれないように思います。「ベタベタ」というのは、教学の言葉の解説をするということですね。それよりは、やっぱり楽しく聞けてより深く味わえるということが大事ですね。
――ご門徒さんからも、「今日の先生が良かった」といった感想などは出るんですか?
西原 基本的に「悪かった」っていう感想は出ないんですが、良かった時は「良かった」と言ってもらえますね。
――お寺に来ていただいて、がっかりさせてはだめなんで、やっぱり法座の講師というのは大事なんですね。
西原 毎回、初めて法話会に来る人が2、3人ほどいるんですね。初めて来た時の講師の法話が良くなかったら、「あーこんなものか」となって、もう来てもらえないんですよ。だからそういう意味では毎回必死です。
――やはりどの講師に来ていただくのかということはとても大事なんですね。
西原 初めて来る方は、もともと縁があったわけではないので、良くないと思えば次からは来なくていいわけです。その人は自分の自由意志で来ているので。
だからうちのお寺は、初めて来てもらった時に、私の本に「初法座参拝記念」という言葉、日付、そして最後に「南無阿弥陀仏」と揮毫して、私の印も入れて贈呈するんです。これは、あなたが来てくれたことを歓迎してますよというメッセージです。お寺にあまり縁がなく、初めて来た人は「来ていいんだろうか?」って思いますから、「歓迎していますよ」という意味で贈呈しています。ついこの前、新しい方が2人来てくれたときもそうしました。
また、「法話会読経」ということもしています。これはたとえば、法話会に来られる方で「うちは今年七回忌なんです」っていう方が、お布施を包んで法話会に来られた場合、故人のお名前を書いて仏壇の前に奉呈して、それでお勤めをするんですよ。普通の法話会だと輪袈裟でお勤めをしますが、その際は五条袈裟を付けてお勤めします。お勤め自体は普通の法話会と同様ですが、その方にとっては、それが七回忌法要になります。この方法の利点は、いつもの法話会には奥さんが一人だけで来られるんだけれども、「今日は七回忌だから娘を連れてきました」といったように、これまでご縁のなかった方に法話会に来ていただくきっかけになるんです。
■ご門徒に積極的に協力してもらうには?
(ポイント:お寺への帰属意識を高める、「やりがい」や楽しさ)
――西方寺様のご門徒さんはとても積極的に動かれていますね。
西原 そうですね。旅行なども、ご門徒が企画してくれて、私も会費を払って参加するんです。万事がそのような形です。ほかには、30年前から講演会を駅前の市民ホールでやっています。その際は、私が忙しかったこともありますが、最初からご門徒が司会や運営をしてくれていました。それがだんだん本願寺派の寺院のグループで開催するようになって、さらにここ6、7年でしょうか、他派のお寺も交えて一緒にやっています。それもやっぱりご門徒が中心で、司会、主催者挨拶、そして勤行までご門徒がする。なので僧侶が前に出る必要がないんです。
――そのようにご門徒さんが積極的なのは、他のお寺さんからすると非常に羨ましいことだと思うんですが、なぜ先生のお寺では積極的に動いていただけるのでしょうか。
西原 やっぱり動かざるを得ないっていうのもあると思うんですよね。東日本大震災のときも、ご門徒が募金を集めて、それを助成金として、震災支援に100日間行こうという目標をたてました。最終的には50日間ぐらい行きましたね。みんなで「千葉県西方寺」って書かれたユニフォームを作ったりしたんですが、それらもすべてご門徒がやってくれました。
――本当に積極的ですね。
西原 先ほどお話をした講演会の開催については、西方寺というお寺への帰属意識を持ってもらうという意味もあるんです。講演会は現在、13箇寺による運営で開催しています。同じ地域の大谷派のお寺も交えてです。そういうところで、たとえば「西方寺門徒の〇〇です。本日司会をつとめます」って言ったら、同じ会場に来ている西方寺のご門徒方は喜ばれますし、お寺への帰属意識も高まるように思います。
それともう一つ大切なのは、講演会が終わってから他のお寺さんと一緒に反省会で一杯やるんです。この前は25人ぐらい集まりましたけども、そのうち西方寺の関係者が12人いました。そこで、「〈うち〉の住職が」とかね、そういう「私たち」という輪が育っていくんですよ。そのことが寺院活動の原動力になるんだと思います。そういった目的もあって、講演会を開催しているんです。反省会で一杯飲んで、「こういうことをやった」「こないだはこうだった」とかの振り返りをしてもらい、その中でやりがいを感じていただくことが重要だと思っています。
――多くの人たちが西方寺の門徒として協働することで、西方寺への意識ができるわけですね。
西原 はい。それと同じように、例えばペットボトルのキャップ集めってありますよね。これもうちは一年中ずっとやってるんですよ。何でやっているのかというと、日常生活の中でキャップがたまってきた際に、「そうだ、西方寺に持って行こう」というように、「西方寺」が脳裏をよぎる、これが重要なんですよ。集めて寄付することだけが目的じゃないんです。
――なるほど。
西原 「親鸞聖人のみあとを訪ねて」という企画もやりましたね。これもご門徒が企画して、西方寺の総代さんが事務局長になって全部やってくれました。「稲田草案から京都・本願寺」(第1回)、「居多ヶ浜から築地本願寺」(第2回)、「京都・本願寺から居多ヶ浜」(第3回)という行程を、みんなで歩くという企画です。歩く人の持ち出しはなしで、みんなで募金して、そのお金で歩いてもらう。歩いた人は写真とレポートを書いてブログに上げて、みんなで楽しむということをしていました。門徒式章をバトン代わりにしてね。とてもおもしろかったですね。
――お寺の活動を楽しんでもらってるような感じなんでしょうか。
西原 そうだと思いますね。ご門徒であっても、お寺に来なければならないという縛りはないので、来たくない人は来なくてもいいんですよね。
■ご門徒以外の方との関わりを持つには?
(ポイント:「飲み食いの場」の重要性、「お返し」の重要性)
――私は田舎のお寺の出身でして、都市部にある先生のお寺とは環境が違うところがあります。お参りに来られるのはほとんどがご門徒さんです。西方寺さんには、浄土真宗に今まで関わりがなかった方が来られるということで、そういった方々に初めて接する時に意識していることはありますか?
西原 特別なことはないですね。浄土真宗のお寺というは、たとえば仏教婦人会など、結束が強い。それはいいことである反面、結束が強いことによって、後からは入りづらいという側面もあるんですよね。だからうちのお寺は入りやすいように垣根を低くしようと努めています。そのために、お寺の役員をしてくれている方でも、そうでない一般のご門徒でも、初めての人でも同じような接し方をするように意識しています。あまりベタベタしすぎないっていうかな。
ところで「人間関係」というものを考えるときに、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の視点では、「結束型」(bonding、家族や親しい友人、同じコミュニティの仲間など「内輪」での強い絆を基盤とするもの)と「橋渡し型」(bridging、異なる集団や背景を持つ人々をつなげる役割を果たす関係性)があるといわれます。これは「絆こそ財産だ」ということなんですが、その絆に2種類があるということです。それでいうと寺院の人間関係は、大体「結束型」なんですよ。特に農村部の寺院っていうのは結束型のところが多いです。そうなると、外から入りづらい。もう関係が固まってしまってますもんね。とはいえ、それはそれで良い側面もありますし、それをすぐ変えるっていうのは少し無理なのではないかと思います。私のお寺のある場所は農村部ではないので少し状況が違いますが、私がもし農村部の寺院で活動を始めるとしたら、やっぱり地域の人との協働について考えます。盆踊りとかお祭り的な形でイベントを組んで、まず「点」として出会いを持つことが大事かと思います。
――そういったイベントなどを開催することで、少しハードルを下げて、まずは来ていただくということは、やはり大事なのですね。
西原 人が集まるためは、やはり飲み食いのイベントが一番ですね。たとえば、築地本願寺の盆踊りには7万人が来るそうですね。あれは「日本一美味しい盆踊り」とまで言われて人気があるわけですが、要は飲み食いのことですよね。伊勢神宮へのお参りでも、伊勢に行くことよりも、まわりの横丁を楽しみに行く方が多いわけですよね。築地本願寺が狙っていることにもそういった側面がありますよね。築地本願寺への参拝というよりは、築地の場外市場でおいしいものを食べるのが楽しみで、そのついでに築地本願寺へのお参りをしよう、と。これは一見、本末転倒に感じられるかもしれませんが、入り口としては重要です。入り口としては、飲み食いの場が、とても相性が良いと思います。その点でいえば、うちのお寺もバーベキュー大会をやっています。
その他には「墓地の緑の会」という会があります。これは清掃のボランティアで、来ていただいた方には交通費とお昼を出すんですよ。草取りをしたり、ほうきで掃いてもらったりするんですけども、20名ぐらい来られます。いま言ったバーベキュー大会は、この会の方々が年に2回開催してくれています。これも重要でしょうね。そのほかには、旅行ですかね。そういった企画に参加して、参加した方がまた別の人を誘っていくということ。実際、さっき少し話しをした「みあとを訪ねて」というイベントは、ご門徒以外でも、うちのご門徒に誘われて参加した方が何人もいましたね。そういう輪の広がりも大切ですね。
――他のお寺でやっていないような法要をやっていたりはするのでしょうか?
西原 法要については、基本的に多くのお寺と同じかと思います。報恩講やお盆などの法要が中心なんですけども、特にお盆は多くの方がお寺に来られるんです。14日、15日で6座を勤めています。その際、事前に法要名簿というものをご門徒にお送りします。すると3分の2ぐらいの方はご仏前と法要名簿を郵便で送ってきてくださるのですが、残りの3分の1の方は、法要に来てくださいます。大体、今年は6座で450名ぐらい来られましたね。コロナ前は500名ぐらいでしたので、少し減ったんですが、いまでもそれだけ来てくれています。そして法要に来ていただいた方には、記念品として私の本などを渡したりしています。来られなかった方には郵送しています。本はあまり歓迎されないと思うんですけれども、どんな形でもお返しをするのは重要ですよね。そういうお返しがあるから、毎年送って来てくださるのだと思いますよ。お布施を送ったけど何も来なかったとなれば、ちゃんと届いているのか不安になると思うんです。うちでは来られなかった方にも、法要の映像と記念品とを送り届けて、またそれらのご懇志は彼岸会の時もお供えしてお勤めしますからということをお伝えしています。
――やはり相互にやりとりをずっと続けていくことも大事なことでしょうか。
西原 そうですね。
(終)
まとめ
今回の西原祐治氏のインタビューから、寺院活性化において参考となる点を挙げると、以下の通り。
1.講師選定への工夫と初参加者への配慮
①情報収集を行い毎回講師を厳選する。
②初めての参拝者に記念品を贈るなど、歓迎の心を形にする。2.法話会と年回法要を結びつけた取り組み
①「法話会読経」を導入し、法話会がご家族の年忌法要の機会ともなるよう工夫。
②法話会参加者の家族との新たなご縁を築く場として活用している。3.ご門徒主体の活動と帰属意識の醸成
①講演会や旅行などはご門徒が企画・運営し、住職も一会員として参加。
②活動後の懇親会や振り返りの場を重視し、やりがいや共同意識を高めている。4.地域社会や一般参加者への開放性
①垣根を低くし、初めての人でも入りやすい環境づくりを心がける。
②飲食や体験を入口にしてご縁を広げる(バーベキュー大会、墓地清掃ボランティアなど)。5.「お返し」の継続による信頼の蓄積
①法要参加者には記念品を渡し、不参加者には映像や記念品を郵送して必ず「お返し」する。
②この相互のやりとりが、毎年継続して参拝・懇志をいただく基盤になっている。







