Ⅵ-1117本善寺殿實孝御往生之記 天文廿二年正月廿六日申剋、本善寺實孝往生[五十九歲]。去年霜月、御佛事に大坂殿へ御上候て、霜月卅日より所勞、其まゝ越年、御坊中北懸作の間にて往生。とかくして本尊を懸申。【調聲】實從・證祐・證珍、早「正【白小袖・絹袈裟】信偈」に、短念佛百反、廻向ぞと申候。其後、北町唯通宿へ出し申候。廿七日に沐浴候、卽勤。予、隙入候間、堅田實誓雇申候、證祐・證珍遣候。「正信偈」ぜゞ、和贊三首、廻向候。其後、入棺[桶也]、勤W夜六時、予と證珍、宿へ行勤申候。「正」ぜゞ、念佛R。廿八日、荷ひ物にて飯貝へ其日に下申候、夜半[と云々]。於飯貝、則御亭に押板に本尊懸申、三具足、燈臺等置也。早「正信偈」、念佛、廻向。願得寺實悟調聲[と云々]。證祐、疱瘡煩ひとて大坂殿に逗留候間、如此每朝每夕御亭にて、「正信偈」[ぜゞ]、【【无紋黑小袖・布けさ】】短念佛百返、回向候。棺は亭押板前、西の方にあり。 一 棺蓋上、白紙にてはりて、名號三返、中を眞に實悟筆。 一 葬送は、侍從[證祐]依疱瘡延引候。仍【上下に多く入】抹香を棺に入れば不匂不損之由、人申候間其分也、妙也。爲後學記之[云々]。 一 桶の蓋をせざる間、於飯貝、蓋をして入棺の勤あり。「正信偈」[ぜゞ]、讚三首、廻向。[白小袖・絹袈裟、木珠數。實悟調聲。] 一 閏正月十七日、侍從殿本服にて下向候。然者、實從・【堅田】實誓、同道候。御堂衆賢勝幷[なら]行心被下候。 一 葬禮無之間は、御堂勤行等も如常。花足等も無之候。 Ⅵ-1118一 十九日申剋、葬禮、上市村川原の内也[天晴風吹]。花足十二合、打敷[紫也]、水引W白すゝしの絹をたてさまにして、竪にぬいめありR、前机三尺五寸計也。たかくて惡し、ひきくすべし。土に足をほりうづむ也。三具足鈷銅、香爐の蓋をせず、灰を風吹立る也。香合蓋を取かくる也。 一 三具足の花は如常。柳の作花六本立也[四本とも云說あり、如何]。 一 町蠟燭は卅六挺。臺如常、竹を紙を細く切てまく。蠟だまりは三寸計に四方にして、角を上の方へ折かへす。普通此分也。 一 火屋の四方の角に、柱より一尺餘のけて蠟燭立。臺同前。 一 前机の左右に一挺づゝ蠟燭立。臺同。何も蠟燭白し。 一 火屋のやね、かりぶき板屋、大さ四間也。柱は黑木也。是はけづりて可然を、黑木は見苦也。北南にひらきあり。葬所の總のまはりに、三尺計のくゐを打て、橫に竹を二すぢそと結也。雜人不可入ため也。火屋は北向也。 一 調聲人は賢勝也。もつけ衣・絹袈裟、水精念珠・白箔の扇也。 一 順興寺[實從]・願得寺[實悟]・慈敬寺[實誓]・侍從[證祐]・顯證寺[證淳]、五人はもつけ衣にあさぎの綾の袈裟を著候。白箔の扇持也。其外は常のけさ也。もつけ衣、白扇也。一家衆・御堂衆、もつけ・絹けさ、水精珠數・白扇持也。鈴の役は行心也。 一 白箔扇は順興寺・侍從・願得寺・賢勝也。紙わらんぢは葬所より半町計歸てぬぎ捨也。扇も捨也[こんがうをはく也]。 一 十九日の申剋に、亭に置る棺をかき出し、御堂の正面の上檀の際の下、下陳の疊一帖あげて置也。上に七帖のけさをひろげをかるゝ也。 Ⅵ-1119一 亡者の輿は如常、五金物金箔にてをす。七金物にてもあるべし。すだれ、一方へり白き紙にて露なし、繪なし。輿の綱は布一はゞにて、如常二筋也。輿杉のあかみ也。不可然候。白き板にてさす物也。かきて入道四人、衣に白布の帶をして玉たすきをあげ、白袴を著てくゝりを入て輿をかく。 一 於御堂正面の縁に輿をかきすへ、下檀にて賢勝、鈴を二つ打て「十四行偈」を始む。短念佛五十返、廻向。さて御堂衆、棺をかきて出、輿の上を後ろへのけて棺を入る也。さて輿を庭へ出し候、各わらんぢをはく。脇こしには、實孝御仕候衆付候。いろの衆也。 一 輿に肩を入る人數。一番、【前】順興寺・【後】侍從。二番、【前】慈敬寺・【後】願得寺。三番、【前】式部卿[賢勝]・【後】三位[證淳]。四番、【前】常樂寺[證賢]・【後】光善寺[實玄]。五番、【前】勝林坊[勝惠]・【後】二位[證誓]。六番、【前】毫攝寺・【後】願行寺[勝心]。七番、【前】興正寺[證秀]。そと肩に懸て、二足三足づゝあゆみ候、門のきはまで也。肩をかけて後、實從と證祐は所勞の間、乘物にて時念佛所にて出候步候。 一 ちやうちん四つ、亡者の輿のさきに小人【白】いろ著して持也。火屋にては、前机の前のさき、火屋の前四所に竹のよをぬきて、くゐの如くに打、それにさし置也。竹を土と一はいにする也。ちやうちんのさきを、火屋の方へかたぶけて置也。土よりながく出て今度はわろしと云々。 一 道の次第。一番に女房衆、輿さきへゆきて待るゝ也。次捧持の衆二、三人。次調聲人賢勝[幷]行心、一家衆。次同宿衆・坊主衆。次ちやうちん・輿亡者也。次えぼし、いろの衆。次えぼし上下の衆。次中間・小者也。 Ⅵ-1120一 時念佛は、葬所より一町計こなたにて始る。さゝう打て也。又火屋きわにて留む。 一 太刀を袋に入、侍從殿一人持せられ候。下間源五郎持也。生絹袋に入、引くゝる也。かぶと金の外にて一結す。主人のそば、後ろに持也。 一 輿は、火屋の東に、南をかしらにたてゝ、北へ次第に立候。【南】一番、實孝息女。二番、願行寺勝心室。三番、藤壽丸W願得寺御息兒R。ちとあひを置て、局W實孝御乳R、次端W下間治部卿内R。藤壽殿雖可有燒香、時宜むつかしき間略之。ぢやうけんの如く、いろをすゝしの絹にてこしらへ著候。露ひぼは紙より也。輿は勤の終候。鈴打て、やがて歸り候。法師衆のさきへ歸る也。 一 時念佛過て、法師衆は前机の前へよる也。亡者の輿は机のわきよりすぐに火屋へかき入也。其後、順興寺と侍從と火屋へ入、やがて戸をさし候。續松二つなげちがへて取て、火をさし候。さて南の口へひらきて、出て歸る也。供衆はいろの俗人也。十餘人。侍從、太刀も持て行也。餘に人多やと云々。 一 何も一色づゝに奉行あり。 一 殿原は、本善寺衆悉色也。順興寺衆同前。願得寺衆同前。 一 女房衆・輿ぞへ何も色也。下の二丁のは、えぼし上下也。 一 燒香の次第。調聲人[賢勝]燒香して、鈴の役[行心]さゝうをうて、「正信偈」[ぜゞ]初て調子をあげらる。其時、侍從燒香、其次順興寺、次願得寺、次顯證寺、慈敬寺、式部卿[賢勝]、光善寺[實玄]、常樂寺[證賢]、敎行寺殿、二位[證誓]、勝林坊[勝惠]、願行寺[勝心]、毫攝寺、興正寺[證秀]。各面々に香箱懷中より取出、二ひねり燒香す。蹲居して退く。 一 「正信偈」[ぜゞ]、念佛五十返にて鈴一打て、三重念佛あげらるゝ。『贊』(正像末*和讚)「无始流轉の苦をすてゝ」、Ⅵ-1121よせ贊「五濁惡世の有情の」也。廻向して歸也。 一 葬より歸て、御堂に勤なし。 一 葬より歸て、一町計して扇をすて、わらんぢをぬぎ、こんがうをはく也。又足よごれは御堂おち縁にて洗べし。扇・わらんぢをばとりあつめて、火屋の火にいるゝと云々。 灰寄 同廿日卯刻也、辰の剋になる也 一 拾骨の時出立、步行同常の扇也WすゑひろがりR。わらこんがうはく也。前机の前に各立て、證祐・實從兩人、火屋の内へ行向ふ時、龍專骨桶持て行く。骨を拾ひて桶に入、龍專持て後より出也。後より歸て、首骨を机の香呂のさきに置也。 一 桶をば、すゝしの絹一はゞ、よほうにしてつゝみむすぶ也。 一 拾骨のはしは、竹と木と也。二膳也。本を紙にてつゝむ。[つゝむ事如何。] 一 火屋の四方の角の蠟燭なし、机の左右にばかり。机の上のも何も白し。 一 桶を机に置て、調聲人燒香す。退く時、鈴二打て勤を始む。如昨日『贊』。 一 机は昨日のごとし。花足なし、花は樒一本也。其外如昨日。 一 燒香次第、如昨日。「正信偈」のうちより燒香する也。 一 歸る時、龍專拾骨をもて調聲人より前にねる。 一 歸て、首骨は御堂の本尊の御前、香爐より奧にすへて、本尊・開山の御前に蠟燭立て、各内陳著座、勤Ⅵ-1122行あり。「正信偈」[眞]、讚三首、廻向也。 一 廿日朝勤、如常W布けさ也、常住也R。廿日朝、首骨をさめてより齋あり。中陰也。 一 中陰の間亭調樣事。本尊を懸申、打敷W紫也、除赤色R、三具足[こどう]、花足六合W今六合用意して置て、他宗の人來らば本尊の御前に可置也R、花は樒一本、立蠟燭は白し、燈臺白し、佛供はかはらけ三度也。香盤の上に置也。朝あけてやがて參る。 一 廿九日に實孝御影下る間、【右には御影のうしろなる間如此】本尊の左[西の方]に懸申候。其日より本尊の前に卓を置、打敷をしき、花足二合[杉成餠]參。御影には卓なし、打敷押板にしく、花足六合、三具足WちうじやくR、花如本尊樒一本也。蠟燭白同前、佛供土器W本尊同、をきつむる也R、燈臺新く白し[同前]。 一 花足、一七日過てもりなをす也。 一 御堂は如常。花足二合づゝ、本尊・開山へ參。打敷[赤]。日中より鐘なる。太夜同勤[眞也]。朝勤と太夜に賢勝讚嘆、日中には「御文」なし。御堂勤、順興寺調聲、依時侍從住持之故也。願得寺二度、式部卿一度調聲候。順興寺・式部卿仕上まで逗留。 一 中陰の間に、日中は、經一卷、短念佛、廻向。「御文」なし。太夜、「正信」[眞]、和贊三首、廻向。「御文」調聲人よむ。朝、「正信偈」[ぜゞ]、和贊三首。「御文」同前。順興寺・侍從・願得寺・慈敬寺・光善寺・顯證寺・式部卿等逗留之時は、番にかはりて調聲候。 一 中陰中、齋W汁二・菜五R、菓子五。非時W汁二・菜三・茶子三R、相伴衆二、三十人づゝ。 一 中陰二七日、閏正月廿日より二月三日まで也W仕上日選ぶ故、十三日ありR。 一 賢勝・行心兩人、齋・非時二七日之間、相伴候。 一 仕上三日には、亭日中『大經』上卷、『阿彌陀經』一卷、次「正信偈」[はかせ]、和贊三首、廻向[「世尊我一心」(淨土論)]也。 一 仕上の三日の晩より、實孝御影、御堂に懸らる。Ⅵ-1123脇押板の脇也。三具足、燈臺をかる。 一 五旬の間、拾骨桶は亭の押板に置也。本尊の前也。 一 中陰之間、亭此間の本尊其まゝにて朝夕勤候。侍從一身爲也。「正信偈」[ぜゞ]、短念佛百返、廻向。「御文」よみ候。殿原衆以下改悔也。四十九日の朝は、「正信偈」[ぜゞ]、和贊三首、廻向。蠟燭立、日中は無也。及晩本尊被卷申候也。 一 四十九日はW二月十五日也R、太夜不鳴鐘。花足、打敷もなしW去三日に被取越故也R。白小袖・絹袈裟、水精念珠・扇持也。勤眞也。齋W汁二・菜六R、菓子五種。 中陰之間齋・非時之事。 同正月廿日。齋W汁二・菜五・菓子五、十二日之間同也R、願得寺・慈敬寺・敎行寺・【同】二位・【名塩】式部卿・光善寺・常樂寺・毫攝寺・顯證寺、各々參會之衆也。非時W汁二・菜三・菓子五、十二日之間同也R、本善寺内衆。 廿一日。齋、奈良・土呂殿門徒衆。同非時、奈良衆・今小路門徒衆・九條方【【行心門徒也】】門徒衆。 廿二日。齋、興正寺。非時、山村將監・【弟】同掃部助・善三郎。將監子與一同弟。 廿三日。齋、【式部】淨尊門徒中。非時、[上市]彥衞門尉門徒衆。 廿四日。齋、順興寺[幷]宮内卿。非時、天河新右衞門。 廿五日。齋、二月廿八日講衆。非時、寺内衆・本善寺殿御門徒衆・勸學寺茶屋宗二郎・小五郎・松千世。 廿六日。齋、【あこ】御料人。非時、願行寺・刑部卿。 廿七日。齋、將監同行衆。非時、式部卿淨尊・【しんか門徒】專順。 廿八日。齋、上市五郎兵衞半分・孫八郎・[とけ]後家・善七郎・彌七郎。非時、【さやたに】助次郎同行衆。 Ⅵ-1124廿九日。齋、[上市]藤右衞門尉門徒衆。非時、[同]油屋彌四郎。 【二月】朔日。齋、下間治部丞。非時、[上市]藤右衞門門徒衆・女房衆。 二日。齋、每年御正忌儀也。本善寺殿W汁二・菜六・菓子五R。非時、【さやたに】助次郎・【同】次郎衞門・【上市】彥衞門・新九郎・孫七郎・彌三郎・十郎兵衞。 三日。點心蒸菱[如常]、菓子七。齋W汁三・菜八・茶子五R、侍從殿。 一 月忌初、如四十九日、花足、打敷無之、蠟燭三挺W本【(尊)】—・開【(山)】—・實孝御影前等也R。不鳴鐘[二月廿六日は每月之儀也]。仍齋以下麤相也W汁二・菜四・茶子三R。 一 百ケ日、如年忌なるべし。御堂三所花足、打敷あり。勤眞也。鐘鳴。