Ⅵ-1083實賢葬中陰之記 大永三年八月三日申之剋、堅田稱德寺實賢御往生。生年卅四歲。依長病七月八日より野村殿え上洛し、加養生しに有限習なれば、餘命不久往生也。此條前々上洛し、往生する人多き間、外聞依御憚其夜取出申、堅田え御下し候也。南殿御亭にて、頭北面西に臥給也。 一 四日辰剋、東向、垂髮。白小袖・絹袈裟・木念數・扇。常照そらる。つとめなし。 一 土呂殿よりは御使、源二郎也。坊主衆其外被下候。 一 五日に堅田へ下候。左衞門督・富二同道・近松殿も御下候。やがて明日御上候。【今】中將・勝林坊・興正寺など御下候。 一 沐浴は四日の夜し候由也。棺に入被置候。衣をきせ、念數をもたせ申候。 一 亭五つ間之所に、頭西北面に置申候。近松殿御下候て、往生以後の勤あるまじく候間、めされ候はんとて御勤候。絹袈裟・白小袖・木念數・扇。勤は「正信偈」[ぜゞ]、但念佛七十反計にて、三重を御あげ候。「弘誓ちからをかぶらずは」(高僧*和讚)御引候て、やがて「娑婆永劫の苦をすてゝ」(高僧*和讚)、又御添候。さて廻向。 一 亭先押板に本尊をかけ申、三具足、樒をたて、白き蠟燭を立候。花足六合、【花足のまへ也】前を亡者の方へむけ、本尊の前にならべをかれ候。靑磁の香爐をもをかれ候。 一 棺蓋名號は予書き候。草字に書也。依顯證寺御異見如此。 一 五日戌剋、荼毗時也。そのまゝ御堂の上壇際、疊Ⅵ-1084一帖あげをかる。上七帖の袈裟を覆はる。 一 本尊・御影御前に蠟燭立候。橋坊調聲、鈴は【南殿】祐心也。近松殿も御出あり。「十四行偈」、短念佛五十反、廻向。 一 輿に肩を入る人數。【あと】予・【さき】左衞門督、【今 さき】中將・【あと】富二位殿、其計也。御堂の庭にて肩を入候。 一 町蠟燭は三十丁也。又火屋の角四方にも立、卓の兩の脇にも一丁づゝ立也。葬所、花足十二合、鈷銅三具足、作り花立らる。打敷は萌黃、中は黃なる段子也。今少路の也。 一 火屋はやねあり、まはりにはなにもなし。大まわり人のいり候分には、竹にてかきをあらあらといひ候。兩方に鳥井あり。火やのあな、きらりとみえ候也。 一 水引は白の絹也。 一 たい松は、若子・予さし候。若子は右京追だき申、たい松を持。 一 時念佛は、町蠟燭一二間入て初る。さゝうにて初る。 一 葬勤橋坊、同調聲、鈴も同。さゝうにて初る。「正信偈」[ぜゞ]、短念佛五十反計にて打てきり、三重をあげ、『和贊』(高僧*和讚)「本願力にあひぬれば」、添贊「さだまるときをまちえてぞ」、廻向也。 一 葬所にて燒香次第。調聲、若子、予、左衞門督、富二位、中將[今]、勝林坊計也。調聲は勤のまへに燒香して、後勤はじまる。 一 堤燈は四丁、いづれもいろをきず。 一 白扇をば鳥井のきわにてすつる。藁沓はぬがず。 一 葬歸りの勤はなし。無用之由御意候也。 一 夜にて候之間、打刀計もたせ候。若子の太【刀】子は絹袋に入らる。 灰寄之次第 一 六日之曉卯之剋也。町蠟燭なし。時念佛もなし。 Ⅵ-1085一 勤の樣、荼毗におなじ。『和贊』A「安樂淨土にいたるひと」(淨土和讚)B「无上涅槃を證してぞ」(高僧和讚)C、『和贊』にて廻向。 一 燒香の人數、荼毗におなじ。 一 三具足の花は樒也。花足はなし。 一 拾骨は、【右京追だき申ひろひ候】若子・予、拾候。御堂衆持てかへる。裳付衣也。一のさきにもちてねる也。 一 拾骨の勤、灰寄より歸て其まゝあり。拾骨は香臺の上にをく。「正信偈」[ぜゞ]、和贊三首にて回向。此勤のやうは、うかゞひ申候也。 一 御堂には、本尊・開山御前に蠟燭立候。 一 花足、打敷、御堂にしく也。 一 衰衣は、予は卿部一人にきせ候。左衞門督□一人也。富田にて如此する也。又今同前。 一 中陰之次第。日中・迨夜、鐘をつき候伺申候。 一 六日の日中よりする也。「正信偈」[□かせ]、和贊六首。白小袖・絹袈裟・水精念數也。 一 御堂の障子はづし候。 一 中陰の間、御亭の五間也。置押板に打敷しき、花足六合、三具足、花は樒也。本尊計かけ申候。佛供、土器に入まいらする也。靑磁の香爐をもをかる。抹香あり。外人の來る時は、花足十二合をく也。 一 中陰の間にて御堂日中已後經あり、伽陀なし、念佛にて回向。後に勤もなし、經ばかりなり。 一 中陰の間、時・非時あり。 一 中陰の間にて朝は、「正信偈」[ぜゞ]、和贊三首、廻向。蠟燭たてず。 一 中陰の間の迨夜、「正信偈」[はかせ]、和贊三首、廻Ⅵ-1086向。 一 結願は、朝粥・かうのもの・さいぎりさんしよ也。再進三度さて日中勤之やう、中陰中のにかはる所なし。日中過て齋あり。菜六・汁三・茶子七種。粥の茶子は五種也。 大永三年八月廿日、圓【(如)】—御第三廻。三月十七日晩氣より迨夜御佛事也。 一 御勤のやう行也。御戸開かる。花足、打敷なし。正面三間障子はづさる。同南狹間三間はづさる。南のふすま、障子一間あり。 一 十八日迨夜は、「文類正信偈」也。 一 つぼねの圓【(如)】—御影御前に燈明あり。蠟燭はたゝず候。佛供、土器に入てまいる。本尊、圓【(如)】—御前にあり。 一 障子みなはづさる。つぼねのおしいたの事也。 一 十九日御時より、時・非時に鐘なり候。同勤にも御つかせ候。 一 十九日之迨夜も「文類正信偈」、日中はいづれも「正信念佛偈」也。 一 結願には經あり、上卷計。後に「正信偈」くりびき、和贊三首、回向。廻向は「世尊我一心」(淨土論)なり、『和贊』(正像末*和讚)は「像法のときの智人も」より三首也。 一 御時・非時頭人。 十八日。御時、御北向より、菜八・汁三・茶子五種。同非時、【一類】近松殿・實玄・賢惠・【富】二位・常樂・淸澤勝林坊、菜五・汁二・茶子三種。 十九日。御時、土呂殿・若松殿・山田・同南向。菜六・汁二也。茶子五種。同非時は、松尾・興行寺・超勝寺・瑞泉寺・丹後・左衞門大夫・興正寺。菜五・汁二・茶子三種也。 廿日。朝點心、【茶子五種歟】むし麥、再進二度。御時は、菜十・汁Ⅵ-1087三・茶子七種、若子より御申候。御風呂あり。