Ⅵ-1075蓮藝葬中陰記 大永三年W癸未R閏三月廿八日巳剋、敎行寺蓮藝御往生W御年四十歲R。 廿八日未剋、參候。則御往生之御貌體見申候。 一 常に御入候御座敷四間也。頭北面西右脇に置被申候。本尊一鋪、卓に三具足[鈷銅]、花は樒也。靑磁の香爐をも被置候。沐浴已前之勤は、依御忘却歟無之。晩氣、白小袖・絹袈裟・木念數、勤申候。「正信偈」[ぜゞ]、但念佛百反、廻向[調聲實玄]。 一 廿九日朝は御堂の勤W如每朝、實玄調聲R。其以後、又御亭にて調聲二位殿、勤樣如昨晩。黑小袖・布袈裟也。 一 常照坊、御使に下さる。廿八日夜被著候。 一 廿九日夕六時に勤、如昨晩。一日晩、勤には黑小袖、絹袈裟をかけ、子細有。 一 葬のなき間は、面にて御時・非時はなし。 一 二日午之剋、入棺。後に勤、調聲二位殿、「正信偈」[ぜ]、念佛百反、廻向。 一 白小袖・布袈裟也。木念數。棺蓋名號、宰相殿御書候。 一 二日の夜、棺置樣、御堂の方、御跡になり候とて、頭西北面に置被直候。 一 三日寅剋、葬送。棺をば御堂局の中被出候。上檀のきわ、疊一帖あげられ、棺被置上に七帖の袈裟を覆はる。本尊・御影の御前に蠟燭を立らる。調聲端の坊、鈴は慶心[西蓮寺]也。「十四行偈」、短【五十反】念佛、廻向。 一 輿をば下陣の末、しきゐ際の縁にをかる。つとめⅥ-1076すぎ、棺を被入。 一 輿に肩を入らる人數。【あと】二位殿・【さき】御新發意、【あと】土呂殿・【さき】宰相殿、【あと】侍從・【さき】左衞門督、【あと】少將・【さき】勝林坊、【あと】大藏卿[新發意]・【さき】【【今小路】】刑部卿。御堂の庭にて。 一 町蠟燭三十八丁。又火屋の四方の角に蠟燭を立らる。又卓の兩の脇に蠟燭【一丁づゝ】二丁。打敷、萌黃段子綴物あり。水引は白き絹なり。 一 花足十二合、三具足鈷銅、作花立らる。香合くろきぐりぐり。 一 たい松をば、二位殿・御新發意、御さし候。 一 時念佛は、町蠟燭のきはより初る。葬所計也。さゝうにて初まる。 一 葬の勤、さゝうにて初まる。「正信偈」ぜゞ、短念佛五十反、【金打】三重を上げ、『和贊』[よせ贊]A「无始流轉の苦をすてゝ」(正像末和讚)B「金剛の信心ばかりにて」(高僧和讚)C二首也。『和贊』にて廻向。 一 葬所にて燒香の次第。端の坊、二位殿、土呂殿、宰相殿、侍從、左衞門督、少將、御新發意、大藏卿、【今】刑部卿と勝林坊也。 一 提燈は二也。乙千代[駿河息]・松菊[右京亮息]。 一 白扇をば、火屋より一町計行てすつ。 一 藁沓はぬがず。 一 葬歸りの勤、二位殿御初候。 一 打刀をばもたせず、太刀もなし。 一 輿を火屋へ入りてあぐる時は、中よりあぐる。今度そとよりあげらる、わろし。同たい松をも卓のきわにをかれ候、あしく候。火屋の中におくべく候。 一 灰寄、同日申剋[土呂殿は、葬過御【上】歸候]。 一 灰寄には、野に三具足の花樒。花足なし。打敷、水引。葬なし。 一 町蠟燭、時念佛いづれもなし。 一 勤の樣、荼毗におなじ。『和贊』[よせ贊]A「安樂淨土にいたるひと」(淨土和讚)B「无上涅槃を證してぞ」(高僧和讚)C、廻向。 Ⅵ-1077一 先卓の前へ竝び、さて二位殿・御新發意、其外色【著】之衆二、三人。御堂衆つき申され、骨を御ひつ□…□候てかへり、御なをり候とき、調聲燒香候て、さてつとめはじまり候。さゝうはなし。燒香之人數、葬におなじ。 一 御骨をば御堂の了專にもたせ候。皆々より前にゆかれ候。 一 わら沓をば、火屋より四、五間ゆきてぬぐ。こんがうをはきてかへる。 一 佛前に拾骨ををき、【本尊・開山之御前蠟燭立】勤あり。二位殿御はじめの「正信偈」[ぜゞ]、和贊三首にて廻向。往生之間にては、なに事もなし。 同中陰之次第 一 同三日の晩景より迨夜。「正信偈」[はかせ]、和贊六首、念佛□て廻向。白小袖・絹袈裟、木珠數を用、扇持也。 一 日中も迨夜の勤のごとし。乍去、水精の念數を持也。直綴也。 一 御堂に花足、本尊・開山の御前に二合づゝ被置。白餠、杉成也。いづれ【兩所】も、うちしきあり。 一 御堂の障子を南の座敷の面、又間の障子をもしか也。 一 御亭の四間の座敷、中陰の間也。臨終佛をかけ、前に置押板ををかる。直に打敷をしき、花足十二合をか□。 一 三具足の花は樒也。燈臺はなし。燈臺新くさゝせらる。 Ⅵ-1078一 三日の迨夜よりあり、御堂の勤は後也。迨夜は【つねの】「正信偈」Wはかせ早也R、和贊三首にて廻向。朝は「正信偈」ぜゞ也。和贊三首、念佛にて廻向。日中は經ばかり也。念佛にて廻向。伽陀なし。 一 出家衆□□よりまいり諷經せらる。その時は白蠟燭を立、靑磁の香爐をのくる也。 一 鐘は前々はつかれ候へ共、圓如などの御時もつかれず候間、伺被申候へばつき候へと傳られ候て、六日の日中よりつかる。 一 僧衆まいる時は、いづれも諷經せらる。二位殿御あひ候て、點心、布一獻。いづれもおなじ御あしらひ也。 一 御堂にて八日より改悔物語候。 一 蓮藝御影出來候て、十四日に下候。御堂にかけ申され樣をば、かねてうかゞひ被申候。而共中陰中にて、御堂にて花足など置。又中陰の間に御影懸ず申候へば、何と哉歟相違候とて、先駿河など異見にて□陰の間に懸被申候。本尊の右脇に懸候也。机ををき打敷、又花足をも御影の御前に、本尊の御前に候を、其備十二合置可申候にて候へ共、机せばく置□れず候間、六合置、三具足、打敷、花は樒。拾骨をも御影の御前にをき、又本尊の御前には花足、餠二合計。花は樒、三具足、打敷如前先如此置申候事候。 一 結願の經は『觀經』・『小經』、如中陰の間無和贊所。 御齋・非時之事 四日。御時、【御坊】これより、菜五・汁二、相伴衆百人計、酒は一反也。菓子□種。同非時、【御堂衆】【【中爲衆】】殿原衆より、菜三・汁二也。茶子三種。 五日。時、菜五・汁二・茶子三種、宰相殿・侍從・左衞門督三人而。同非時、菜三・汁二・茶子三種、御廚Ⅵ-1079藤四郎。 六日。御時、右京亮、菜五・汁二・茶子同前。同非時、駿河、菜いづれも朝は五、非時は三、汁は二、茶子□□。 七日。御時、四郎左衞門尉・新四郎。同非時、佛照寺敎念。 八日。御時、御うへより。同非時、宰相殿、今日御上候。 九日。御時、右京亮内衆。同御非時A寺内衆・女房衆也。B八日講衆C。 十日。御時、御堂□人番W所々入道衆R。同非時。 十一日。御時、常照坊上洛。同非時。 十二日。【賢】南向。同非時W今日風呂あり。正專寺正信たかれ候由也R。 十三日。御時。同非時。 十四日。【御時】大和衆。同【非時】大和衆。 Ⅵ-1079十五日。朝點心、茶子五種。御時は菜六・汁三也。無再進飯、火飯 也。酒二反・茶子五種、有風呂。