Ⅵ-1067蓮能葬記 蓮能葬中陰之儀式之事W往生は永正十五年九月三日丑剋半R 一 往生ありつる座敷の押板に本尊を懸、三具足をかる。兔角してひきひきとつとめあり。「正信」[早也]、念佛[短稱]。 一 未明に沐浴あり。御頭をば御堂衆そりをとす也。白帷、袈裟、衣をめさせまいらせ、念珠をも持申さる。石を枕にさせ申、御頭に白布二ゑに折て懸る也。たゝみをあげ、莚をしき、頭北面西に置申也。 一 同四日の朝、御堂の勤行、如常。往生ありし座敷にて、「正信」[早]、短稱、廻向あり。夕同之。 一 同入夜、入棺ありてもとの所にをかるゝ也。棺の外をば紙にてはる。蓋の上に名號三行W中たかく脇ひきしR、わら繩を紙にて裹二所よこにゆい、又たてに一筋な【か歟】らく。中を布にて一重にゆふ也。 一 同晩より本尊・開山御前に花足、打敷をかるゝ也。 一 五日朝の勤行、如常。南殿同前。 一 寅剋、葬送あり。先棺を御堂へ出し、次の間の正面上壇のさいのきはのたゝみ二でうをあげて棺を置。その上に七でうの袈裟をおほはる。さて調聲すゝみて、「十四行偈」を始、念佛、廻向あり[各一門衆も次の間にあり]。その間、輿をば正面の庭上にをく。勤はてゝ、輿を掾の上へあぐ。ながへをば廣掾によせ、輿は落掾にあり。さて庭上をへて阿彌陀堂の前庭上に輿をかきすゑ、いさゝか置て、少々肩を入るゝなり。【前】顯證寺・【後】大納言殿、【後】宰相・【前】常樂寺、【後】侍從・【前】左衞門督、【後】中將・【前】大藏卿、【後】中將Ⅵ-1068[實乘]・【前】勝林坊、此外無之。 一 ちやうちん、四ながら輿の前へ持す[色を著す]。輿かき六人W寺中在京人也。非坊主衆R、法師は直綴、入道は道服衣也。衣の後ろをかみよりにてゆいて、たすきのごとくする也。布帶をもする也。白ばかまにくゝりを入る也。袈裟かけず。 一 輿の前へは法師衆計也。供の俗人一人もまじらず。輿のあとには色を著する衆少々あり。 一 葬所の近所W半町よりちかしRになりて、時念佛初る。火屋のあたりにて止らるゝ也。W調聲・鈴の役者は前へねるなりR 一 輿をばすぐにをもてより火屋の内へかき入て、戸を立る也。肩をいれず。 一 ちやうちんをば、四ながら机の前に、さきを火屋の方へかたぶけて二所にたつ。机の足のとをりより、すこし廣かるべし。 一 内の用意ありて、内より面の戸をひらく時、宰相・侍從、火屋の内へ入て、たい松をもて火を付て後へ出、もとの所へ[机の前]かへる。さて調聲人すゝみて燒香して、そと禮拜の體ありて、退く時さゝうを打て、「正信」[早]、念佛A早B五十遍計C、鈴を一打て、三重をあぐW常に少ふしかはるR。和讚一首に寄讚ありて、廻向畢。 一 火屋の庭を出さまに白扇すつる也[此說未決]。 一 わらんぢを門前の河原にてぬぎすて、はだしにて歸るW此儀同前未決R。すぐに御堂へまいり、湯にて足をそゝと洗て勤行あり。上衆上檀如常。「正信」[早]、和讚三首、廻向畢。 一 葬所之體は、打敷・水引W共に以赤色を除R、花足十二合、三具足W白作花R。 一 町蠟燭W三十丁ばかりR、机の脇にも二挺たつ。火屋の四方の外の角にも一挺づゝ立。 一 一家衆・御堂衆等、裳付衣・絹袈裟也。 一 「正信偈」初りて、いさゝかありて各燒香す。輿のⅥ-1069肩入る人數計也。[香合懷中に持て、取出して燒香す] 一 同日申時、拾骨。 一 葬所には、打敷・水引同前、花足なし。花は樒なり。 一 各御堂よりいづ。火屋の机の前へすぐに行。其時、火屋の戸を内よりひらく時、實賢・實玄・賢惠、面より内へ入て首骨を拾ふ。桶は生絹にてつゝむ。榮春、桶を持て火屋の後ろより出、机の上に置。實賢・實玄・賢惠も、後よりもとのごとく机の前へ歸る時、調聲人すゝみて燒香して退く。さてさゝうを打て、勤行始る。同前なり。 一 燒香の人數、同前[樣體同]。 一 首骨の桶を持せて、總の衆に打まじりて歸るなり。 一 如前わらんぢをもぬぐ也。以下同前。 一 すぐに御堂へまいる。勤行あり。「正信」[早]、和讚六首。 一 首骨の桶をば、開山の御前の香ばんの上にをかるゝ也W於田舍は、本尊の御前にをかるべしR。 一 勤行すぎて、御堂の局の内押板に本尊を懸、三具足、花は樒也。打敷、花足[六合]。首骨の桶をも局の内にをかるゝ也W若他宗の衆來は、此座敷にて勤行させらるべしR。 一 迨夜あり、如常W只今より中陰の儀式なりR。 一 南殿亭に本尊をかけ、三具足、花樒、打敷、花足W二合R。中陰の間、每日三度勤行あり。和讚三首。是は實賢・實玄・賢惠、志の爲ばかりなり。 一 六日朝の勤行、如常[眞也][二七日の間同]。【朝ばかりなり】其後局の内Ⅵ-1070にてひきひきと「正信」[早]、念佛[早]百遍、廻向[二七日同之]。 一 齋Aさい三Bしる二C・非時[同]、二七日如此。中酒[一遍]・茶子W五 非時三R、箸を懷中して立。 一 日中、『大經』一卷[伽陀なし]、和讚三首[二七日同之]。 一 御影供、每日あがる也。 一 迨夜、同前。七日・八日・九日・十日[同之]。 一 十一日、齋A菜五B汁二C、茶子[五種]。實賢・實玄・賢惠・實順息、爲志沙汰之。 一 十二日、一作日に同。 一 十三日、齋[十一日に同]、各爲志沙汰之[人數不及書載]。 一 十四日、齋A菜三B汁二C、次之衆、爲志沙汰之[蓮能召仕衆也]。 一 十五日[滿散也粥あり]日中、『大經』、『阿彌陀經』、和讚三首。齋A菜八B汁三C、茶子[七種]・中酒[二遍]。 一 御堂の莊嚴等、悉とらるゝ也。明日[十六]、二七日に相當といへども、日がらあしきによりて、今日引あげらるゝ也。 一 五旬の間、南殿御うへ往生ありし座敷也。每朝夕、「正信」[早]、念佛[早]、廻向あり。實賢・實玄・賢惠・實悟ばかり也。 一 月忌始、迨夜あり。朝の勤行[眞也]、開山の御前に蠟燭立。齋A菜五B汁二C。日中なし。 一 四十九日、同前。是は兩日共に日中可有之事歟W私云、御堂衆へ如五日と被仰付候間、朝蠟燭をとぼさる也。此段は各不審、圓如同前に仰事候し也R。 一 打刀持す。太刀不持。 一 板輿口[一方]、すだれのへりは白紙なり。露はなし。 一 死日より或一七日、或二、三七日等取と云說、又首骨を取入てよりこれを初ると云說、兩樣也。此内依其便宜可被用事、不苦歟。 永正十五年拾月仲旬日、以圓如記錄。圓如引直承Ⅵ-1071候分、實悟書之。 於京都不及見條之事 一 死人に剃刀あてらるゝ事。同沐浴して勤行ある事。 一 入棺の時、勤行ある事。 一 三具足、輿の前へもたする事。 一 輿をかきて火屋のそとをまはる事。 一 調聲人、續松に火を付て出す事。 一 初・二・三重に勤行ある事。 一 首骨桶を机の上小机に置事。 已上 右此一冊者、淸澤願得寺被寫置者也。仍今借上此本寫留畢。