Ⅵ-1027江州志賀郡堅田本福寺由來

【開基】善道
俗姓は三上氏にて御座候。鳥羽院御宇天仁元年之比、美濃前司義綱、其甥爲義と江州甲賀山にて合戰之時、義綱幼少之子、重代太刀・一卷之系圖書を相添、三上山へ隱置候。三上山之社人、此子を拾、養育仕、神職と罷成候。貳百年計打過、善道代に成候而堅田に移住仕、御一流之御門徒に罷成候。善道子に覺念と申者御座候處、晩年に及禪宗に罷成、御法流相續不仕候。

【第二代】法住
善道孫、覺念子にて御座候。應永廿年之比、巧如上人・存如上人奉謁、蒙御勸化候。長祿四年二月廿四日、大本金泥十字御名號御免被成候。蓮如上人御筆にて御座候。
寛正二年十二月、二尊佛御免被成候。蓮如樣御壽像之最初之由申傳候。
寛正五年四月、御繪傳御免。蓮如樣、御直に繪御好被成。常之御繪傳より大きに御座候。
寛正六年正月十日之比、山門惡徒、大谷之御堂に障難仕候刻、法住承候而人數三百人計召連、御坊へ相詰、御番相勤申候。其後山門惡黨之所行、國中之御門徒に種々難題申懸候。利欲之沙汰と法住承届、鳥目八十貫相調、坂本大宮神前に相積、種々申宥候。飯室正善院、法住と舊友之好御座候而三塔集會之刻、可申開之由被申聞候故、法住金泥十字を負、正善院同道仕、中堂正Ⅵ-1028面柱十字之御名號を掛、邪正之問答仕候義、正法之旨申開罷歸候。
應仁元年、京都亂劇之刻、御開山樣御眞影・蓮如樣、御舟被召、二月上旬、唐崎濱御著船被成。其年報恩講御佛事、於當寺御執行被遊候。御筆數幅被遊、御和讚、眞名・假名十二部、書寫被遊候。門徒中へも、報恩講に御光臨被成、三首引之勤行に被成候。請待仕候方、數多御座候故、御勤短座に被遊候。于今堅田在家共取越、三首引之勤行仕候。
翌年正月三ケ日には、眞之勤行御執行被成候。堅田漁獵之者計にて、常御催促敷申候儀無之と思召、三ケ日之内も「御文」御談被成、御勸化被遊候。于今當寺三ケ日にも「御文」拜談仕候。元朝、御眞影・蓮如樣御盃之時、法住子明顯、御酌勤候。蓮如樣御杯、法住頂戴仕、其後參詣衆中に御杯被下候。
應仁三年之春、將軍慈眼院殿、花御所御造作之材木、湖上之海賊奪取候事御座候時、堅田之者之所行と被聞召、山門に被仰遣、堅田之盜賊可搦捕之旨御座候故、山門より堅田を可被追討之旨御座候故、御眞影・蓮如樣、大津に成可奉之儀、法住才覺仕候。大津濱之道覺と申者、法住門徒にて御座候故、新御座所を構、二月十二日夜、潛に大津へ御著岸被成、法住御供致、大津に相詰申候。道覺は三井寺南院萬德院之家來にて御座候故、法住、萬德院に取入、靑江太刀一腰・三種兩樽持參仕、蓮如樣大津御移住之才覺仕候處、近松境内を申請、御坊御建立、御安座被遊候。
文明年中、法住癰疽煩申候時、蓮如樣・願成就院殿、御同道被成、近松より堅田へ御光臨被遊。病氣御問被遊、被下候。
文明三年、蓮如樣吉崎御下向之刻、堅田に御光臨被成、法住御供仕候。御逗留之内、兩度御機嫌窺のため罷越候。
Ⅵ-1029蓮如樣河内出口御座被成候刻、報恩講之砌、法住參上仕候。其時「御文」一通被遊被下候。正月御禮、法住に明顯同道仕、出口へ參詣仕候處、御拜顏共遊候被下候。
法住、文明十一年十二月十六日に八十二才にて卒去。

【第三代】明顯
法住子にて御座候。文明九年、堅田新在家に於而御坊御建立之爲、勝地寄進仕候。
明應元年、從蓮如樣鳥目二十貫拜領仕候。去る延德三年、當寺燒失仕候處、此度再興仕候事、被及聞召、御影樣へ御奉加之旨、被仰下候。
明應四年、明顯、鳥目七十貫文を以、北郡より堂を買求、新在家御坊建立仕候。其後山科音羽へ御引被成候。其後又御坊御建立被成候。
永正四年六月廿三日、京都爭亂に付、御眞影・實如樣・圓如樣、堅田に御下向被成候。明顯御迎參、大津より御船被召候。廿五日早朝、御著岸。三年之間堅田御坊に御逗留にて、永正六年三月廿二日、山科に御歸寺被成候時、明顯、御膳を指上候。
同年十一月十九日、御眞影、山科に御歸座被成候。
明顯、永正六年十月十八日、六十五才にて卒。

【第四代】明宗
天文九年六月六日、七十二才卒。

【第五代】明誓
實如樣御免にて、『御本書』御相傳仕候。
天文元年八月廿四日、山科御坊障難御座候刻、證如樣、Ⅵ-1030大坂御坊に御下向、明誓御供仕候。泉州堺浦より細川六郎を初とて、南北武士、日々大坂御坊に障難仕候。明誓、相詰御奉公勤申候。
明誓、天文十六年四月廿四日、五十七才卒。

【第六代】明順［權律師］
永祿四年、被任權律師候。
顯如樣、大坂御籠城之刻、明順・明乘父子、大坂へ相詰御奉公仕候。顯如樣、御感被遊、御身中之印籠、明乘に被下候。
明順、天正九年正月二十四日、六十才卒。

【第七代】明乘［法印］
慶長六年春、敎如上人、堅田御下向被成。裏方に參詣可申可被召、院家之旨御座候へ共、承引不仕候。
慶長十三年、被任法印候。
慶長之比、於御影堂『御本書』御相傳仕候。
明乘、元和六年六月三日、六十三才卒。

【第八代】明藝
寛永年中、御影堂幷大門御造營之刻、明藝、地築之役相勤申候。
御影堂材木、鳥羽より引著申候。
寛永十一年霜月七日、御内陳に著座可仕之旨、御免被成候。御學【文】問所にて、御禮申上候。
寛永十七年、被任法橋候。
慶安二年、被任法眼候。
同年四月廿三日、良如樣、竹生嶋御見物御下向之時、三宮樣・竹門樣御同道、當寺御一宿被遊候。關東御上下之時節、大津通寺にも御輿被入候。
良如樣之御代、於御數寄屋御手前にて、御茶被下候。
明藝、承應二年十月五日、五十四才卒。

Ⅵ-1031【第九代】明賢　當住持
萬治三年、被任權律師候。
元祿五年［甲］三月七日、遷化。

明式

天和三癸亥年八月