Ⅱ-0723如來二種廻向文 『無量壽經優婆提舍願生偈』曰、「云何廻向、不捨一切苦惱衆生、心常作願、廻向爲首得成就大悲心故。」[文] この本願力の廻向をもて、如來の廻向に二種あり。一には往相の廻向、二には還相の廻向なり。往相の廻向につきて、眞實の行業あり、眞實の信心あり、眞實の證果あり。 眞實の行業といふは、諸佛稱名の悲願にあらわれたり。 稱名の悲願、『大无量壽經』(卷上)にのたまはく、「設我得佛、十方世界无量諸佛、不悉咨嗟稱我名者、不取正覺。」[文] 眞實信心といふは、念佛往生の悲願にあらわれたり。 信樂の悲願、『大經』(卷上)にのたまはく、「設我得佛、十方衆生、至心信樂欲生我國、乃至十念、若不生者、不取正覺。唯除五逆誹謗正法。」[文] 眞實證果といふは、必至滅度の悲願にあらわれたり。 Ⅱ-0724證果の悲願、『大經』(卷上)にのたまはく、「設我得佛、國中人天、不住定聚、必至滅度者、不取正覺。」[文] これらの本誓悲願を選擇本願とまふすなり。この必至滅度の大願をおこしたまひて、この眞實信樂をえたらむ人は、すなわち正定聚のくらゐに住せしめむとちかひたまへり。 同本異譯の『无量壽如來會』(卷上)にのたまはく、「若我成佛、國中有情、若不決定成等正覺證大涅槃者、不取菩提。」[文] この悲願は、すなわち眞實信樂をえたる人は決定して等正覺にならしめむとちかひたまへりとなり。等正覺はすなわち正定聚のくらゐなり。等正覺とまふすは、補處の彌勒菩薩とおなじからしめむとちかひたまへるなり。これらの選擇本願は、法藏菩薩の不思議の弘誓なり。しかれば、眞實信心の念佛者は、『大經』(卷下)には「次如彌勒」とのたまへり。これらの大誓願を往相の廻向とまふすとみえたり。彌勒菩薩とおなじといへりと、『龍舒淨土文』にはあらわせり。 二、還相廻向といふは、『淨土論』曰、「以本願力廻向故。是名出第五門」と。 Ⅱ-0725これはこれ、還相の廻向なり。このこゝろは、一生補處の大願にあらわれたり。 大慈大悲誓願は、『大經』(卷上)にのたまはく、「設我得佛、他方佛土諸菩薩衆、來生我國、究竟必至一生補處。除其本願自在所化、爲衆生故、被弘誓鎧、積累德本、度脫一切、遊諸佛國、修菩薩行、供養十方諸佛如來、開化恆沙无量衆生使立无上正眞之道。超出常倫、諸地之行現前、修習普賢之德。若不爾者、不取正覺。」[文] これは如來の還相廻向の御ちかひなり。これは他力の還相の廻向なれば、自利利他ともに行者の願樂にあらず、法藏菩薩の誓願なり。他力には義なきをもて義とすと、大師聖人はおほせごとありき。よくよくこの選擇悲願をこゝろえたまふべし。 正嘉元年W丁巳R閏三月廿一日 書寫之